サクラの花の終わりに:泰山府君

 今年のサクラは終わりに近づいているが、まだ咲いている一つが「泰山府君(たいざんふくん)」。足立区の荒川堤で栽培されていた品種で、中世に桜町中納言が桜の花が散りやすいのを嘆いて、泰山府君を祭って花の期間が長くなるよう祈ったところ、そのお陰で21日も散るのが延びたという故事に基づいている。

 能の「泰山府君」は桜の季節を舞台に、万物の生命を司る道教の神泰山府君に桜の花の延命を願う曲。これに天女が桜の枝を折るという趣向が付け加わり、後段では泰山府君が勇壮に、天女が優雅に舞う。作者は世阿弥とされる。泰山府君はその名のとおり泰山の神で、人の寿命を延ばすと信じられていた。その信仰が道教とともに日本にも伝わり、世阿弥の時代でも泰山府君は生き物の命を永らえさせると信じられていたようである。

泰山府君は仏教の閻魔王に相当する冥府の神。慈覚大師円仁によって比叡山に勧請せられ、延命をつかさどる守護神として祀られた。

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