ハマボウの実

 ハマボウアオイ科フヨウ属の落葉低木。浜に生える朴の木(ほおのき)から「はまぼう」になり、漢字は「浜朴」。「浜椿」ともいわれ、昔から詩歌に詠まれてきました。同じフヨウ属のオクラの花に色も形もよく似ています(画像)。ハイビスカスと同じように、朝咲いて夕刻にはしぼむ一日花。しぼんだ花は燈色に変わります。海水につかっても育つため、「温帯のマングローブ」とも言われています。湾岸地域にはそんなハマボウが何本も植えられています。既に花は終わり、今は実がついています。実は2㎝程の蒴果で、果皮には細かい毛があります。

*画像はオオハマボウの実にも見えるが、葉の基部が湾入していない。

 

秋のアマリリス

 アマリリスは真っ直ぐな太い茎に、大きな花を咲かせます。「アマリリス」はヒガンバナ科の植物の総称で、原産は中南米西インド諸島。地中に鱗茎をつくる多年草で、その花はユリに似ています(画像)。花の色は白・赤・薄紅・淡黄など様々。日本には江戸時代末期に渡来しました。アマリリスヒガンバナ科の他の植物と比べると、繊細さはなくても、力強く、肉感的でさえあります。とはいえ、ヒガンバナ科ですから、球根などにリコリンを含み、有毒です。

 シロスジアマリリスは10月になって花が咲き、それが一般的なアマリリスと大きく違う点です。また、葉の中央に白色の筋が入り、花にも筋が入ります(画像)。また、ベラドンナリリーという別名をもつホンアマリリスヒガンバナ科の秋に咲く栽培種。本種が本当のアマリリスという意味で「ホンアマリリス」という和名がついています。9月に1~2本の花茎を伸ばし、ピンク色の芳香のある花を1房に10輪以上つけます。

 そして、最後の画像が八重咲きのアフロディーテです。アフロディーテは巨大輪の花が魅力です。アフロディーテは春に咲き、花は桃地の赤い鹿の子班をもちます。年に2回花が咲くことがあり、画像は現在咲いているものです。

*画像は順にホンアマリリス、シロスジアマリリスアフロディーテ(二枚)

**ジャガタラジャカルタの古い名前で、オランダ船がジャワ島経由で日本へ来たことから、運んできた品物を「ジャガタラ~」と呼びました。そのため、アマリリスの和名はジャガタラ水仙

ホンアマリリス

シロスジアマリリス

アフロディーテ

アフロディーテ

 

シマサルスベリ

 湾岸地域にはサルスベリが多く、一部は街路樹にまでなっています。今は花があちこちで見られ、赤、ピンク、白の花が暑さにめげず咲いています。初秋までの長い期間に渡って花を楽しむことができるため「百日紅(ヒャクジツコウ)」という別名がありますが、実際の花期は2か月ほどです。

 仏教の三大聖木(無憂樹、菩提樹、沙羅樹)は日本では気候の違いなどから育てることができず、代用樹が用意されました。ナツツバキは沙羅樹の代用で、無憂樹(アショーカ樹)は花姿が似ていたサルスベリが代用となりました。また、菩提樹はインド菩提樹ではなく、中国原産の菩提樹が代用樹になってきました。確かに、私の記憶の中のサルスベリは近くの寺の境内に植えられていて、すべすべの木肌を今もよく憶えています。

 江戸時代に渡来したサルスベリミソハギ科の落葉中高木。木登りが上手なサルでも、滑り落ちるほど樹皮が滑らかということから命名され、漢字では「猿滑」、「百日紅」、「紫薇(しび)」などと書かれます。「百日紅」という字の由来と「さるすべり」という呼び方の由来はまったく別モノ。「百日紅」を「さるすべり」と読むのは「熟字訓(じゅくじくん)」という読み方で、熟字訓は漢字1字に読み方をあてるのではなく、熟字(2字以上の漢字の組み合わせ)に訓読みをあてた読み方。熟字に訓読みをあてた熟字訓は熟字(2字以上の漢字の組み合わせ)に読み方があてられているため、漢字単体に読み方が振り分けられていません。熟字訓は正に「方便文化」の一つで、いい加減と当意即妙、頓智と機知の紙一重の工夫のように思われます(「千日紅」は「センニチコウ」)。

 さて、上記のような話ではなく、より科学的にサルスベリを考えたくなるのが、たまたま遭遇したシマサルスベリでした。樹木全体の様子がサルスベリと微妙に違っていて、私が気づいた違いは花が早く終わり、楕円形の実がたくさんつき、葉も大きく、先が尖っていたのです。こんな諸特徴は最初の直感的な違いの後で意識的に見直し、図鑑等で調べて整理したもので、いわゆる観察結果です。それでも観察は恣意性を含み、観察対象の樹木も個体差があり、サルスベリなのかシマサルスベリなのかは判断に迷います。たまたま、周りには街路樹のサルスベリが花盛りでしたから、じっくり比較し、諸特徴を見比べることができました。例えば、表現型の違いは種差なのか個体差なのか、私のような素人にはとても厄介な問題です。そのために遺伝子型で比較すればいいのでしょうが、私にはそんな技術がなく、習得する気もありません。ということで、サルスベリとシマサルスベリの表現型レベルでの違いを参照しながら、我が眼を信じて判別するしかありません。

 花の咲く期間の違い、樹皮の違い、葉のサイズと形、実の形状等から、今たくさんの実をつけている画像はシマサルスベリと判定しました。シマサルスベリは中国中部、台湾及び奄美諸島などの亜熱帯に分布するサルスベリの近縁種で、開花時期はサルスベリと同じですが、花の色は白のみです。サルスベリと比べると花が小振りです。樹皮はサルスベリよりも白く、幹は直立し、その美しさはサルスベリに勝ります。

サルスベリとシマサルスベリの関係によく似ているのが、トネリコシマトネリコの間の関係です。トネリコは落葉樹、シマトネリコは常緑樹です。

 

ヤマボウシの実

 ミズキ科のハナミズキ(花水木)の別名はアメリヤマボウシ。日本の近縁種ヤマボウシに似ていることに由来します。北アメリカ原産のハナミズキが日本へ入ってきたのは明治時代。ワシントンにソメイヨシノを送った返礼として日本にやってきました。ハナミズキは赤く艶のある実をつけますが、私たちにはおいしくなく、ヤマボウシの実がおいしいのとは好対照です。

 ヤマボウシの実は緑色の実が次第に赤色に変わり、糖度が高くなり、甘いものに目がない最近話題の熊の大好物。画像は赤味がつき出した今のヤマボウシの実で、実の味よりは葉と実の色のコントラストが見事です。

ハナミズキ





 

クロガネモチの青い実

 湾岸地域ではクロガネモチ(黒鉄黐)が多く植えられていて、今はあちこちでその青い実を見ることができる。クロガネモチはイチョウなどと同じように雌雄異株。実をつけるのはクロガネモチの雌の木。雄の木を見落としているのかも知れないが、どのクロガネモチも実をつけているのを見れば、雄の木がほとんどないことになる。雄の木がなければ、そもそも実をつけることができない。

 クロガネモチとはモチノキ属の常緑樹で、都市の環境にも耐えることから、公園樹、あるいは街路樹として人気がある。青い実が冬に紅くなる庭木としては最大級のもので、花の少ない冬を彩る。雌雄異株植物では雌株の花に雄株の花粉がついて初めて実ができる。実がなるのはメスの木のみ。「オスを植えなくても実はなるが、強い剪定を行うと実の数は減る。また、オスの木であってもメスの木を接ぎ木すれば実がなる。」などと説明されると、私は混乱してしまう。それでは雄の木の役割は何かわからなくなり、終には雌雄異株ではないことになってしまう。

 種子のDNAと母樹のDNAと周囲の同じ樹種の木のDNAを調べることで、種子の父親(花粉親)を判定できる。種子の花粉親がわかれば、花粉親と母樹との距離、つまり花粉がどのくらい遠くの木から運ばれてきたかがわかる。樫の木の一種では、数百メートルも離れた樹木からも花粉が運ばれる。クロガネモチでも、随分離れている雄株から花粉が運ばれていると考えられる。

 そんな疑問や説明とは裏腹に、残暑の中でクロガネモチの青い実が元気であり、冬には紅い実を見ることができそうである。

 

コムラサキとシロミノコムラサキの実

 蝶のコムラサキではなく、植物のコムラサキはシソ科ムラサキシキブ属の落葉低木。北海道と青森を除く日本各地の山野に分布し、中国や朝鮮半島にも分布する。同属のムラサキシキブとともに紫式部にちなんで名付けられた。ムラサキシキブは樹高が3mにもなる「木」という印象だが、コムラサキは樹高が1.5m程度に収まり、広く親しまれてきた。

 コムラサキは「小紫」の名の通り、紫色の実をつけるが、花より実の方が圧倒的に人気のある「花より団子」の植物の一つ。「愛でるのは花ではなく、実である」のがコムラサキで、シロミノコムラサキはそのコムラサキの白花品種。花が白色で、実も白色。一方、ムラサキシキブの白花品種はシロシキブと呼ばれるが、シロミノコムラサキもシロシキブと呼ばれることがある。

 コムラサキもシロミノコムラサキも湾岸地域のあちこちに植えられている。9月に入り、たくさんの実をつけているが、厄介なのは色づく前のコムラサキの実が白く、色づいたシロミノコムラサキの実と区別がしにくいこと。でも、よく見ると、紫色や白色になる前の実はコムラサキもシロミノコムラサキも同じ僅かに緑が入った白色であることがわかる。

*画像は順にコムラサキ、シロミノコムラサキ、紫色になる前のコムラサキの実

 

ノシランの花

 ノシラン(熨斗蘭)はアジア原産で、東海地方以西、さらには沖縄や済州島に分布する多年草。温暖な沿岸域のやや湿った林下などに生育。葉はヤブランに似ているが、より長くて幅が広くて、長さ30~80cm程で先端は垂れ下がる。花茎は長さ30~50cmで、断面は扁平になり茎の太さとほぼ同じ幅の翼が見られる。花期は7月から9月で、白色から淡紫色の花が咲く。名前の由来は、花が「熨斗(のし)」の形に似ているところから(「熨斗」は贈答品を包装する熨斗紙の上方にある飾り)。種子は長さ9~10mmで、最初は緑色だが、青→紺と次第に色が変化し、ジャノヒゲと同じようにコバルト色に熟し、とても美しい。

*画像は斑入りのノシランで、葉に白いストライプ模様が入る品種。明るい雰囲気を持ち、園芸用に流通している。