湾岸地域にはサルスベリが多く、一部は街路樹にまでなっています。今は花があちこちで見られ、赤、ピンク、白の花が暑さにめげず咲いています。初秋までの長い期間に渡って花を楽しむことができるため「百日紅(ヒャクジツコウ)」という別名がありますが、実際の花期は2か月ほどです。
仏教の三大聖木(無憂樹、菩提樹、沙羅樹)は日本では気候の違いなどから育てることができず、代用樹が用意されました。ナツツバキは沙羅樹の代用で、無憂樹(アショーカ樹)は花姿が似ていたサルスベリが代用となりました。また、菩提樹はインド菩提樹ではなく、中国原産の菩提樹が代用樹になってきました。確かに、私の記憶の中のサルスベリは近くの寺の境内に植えられていて、すべすべの木肌を今もよく憶えています。
江戸時代に渡来したサルスベリはミソハギ科の落葉中高木。木登りが上手なサルでも、滑り落ちるほど樹皮が滑らかということから命名され、漢字では「猿滑」、「百日紅」、「紫薇(しび)」などと書かれます。「百日紅」という字の由来と「さるすべり」という呼び方の由来はまったく別モノ。「百日紅」を「さるすべり」と読むのは「熟字訓(じゅくじくん)」という読み方で、熟字訓は漢字1字に読み方をあてるのではなく、熟字(2字以上の漢字の組み合わせ)に訓読みをあてた読み方。熟字に訓読みをあてた熟字訓は熟字(2字以上の漢字の組み合わせ)に読み方があてられているため、漢字単体に読み方が振り分けられていません。熟字訓は正に「方便文化」の一つで、いい加減と当意即妙、頓智と機知の紙一重の工夫のように思われます(「千日紅」は「センニチコウ」)。
さて、上記のような話ではなく、より科学的にサルスベリを考えたくなるのが、たまたま遭遇したシマサルスベリでした。樹木全体の様子がサルスベリと微妙に違っていて、私が気づいた違いは花が早く終わり、楕円形の実がたくさんつき、葉も大きく、先が尖っていたのです。こんな諸特徴は最初の直感的な違いの後で意識的に見直し、図鑑等で調べて整理したもので、いわゆる観察結果です。それでも観察は恣意性を含み、観察対象の樹木も個体差があり、サルスベリなのかシマサルスベリなのかは判断に迷います。たまたま、周りには街路樹のサルスベリが花盛りでしたから、じっくり比較し、諸特徴を見比べることができました。例えば、表現型の違いは種差なのか個体差なのか、私のような素人にはとても厄介な問題です。そのために遺伝子型で比較すればいいのでしょうが、私にはそんな技術がなく、習得する気もありません。ということで、サルスベリとシマサルスベリの表現型レベルでの違いを参照しながら、我が眼を信じて判別するしかありません。
花の咲く期間の違い、樹皮の違い、葉のサイズと形、実の形状等から、今たくさんの実をつけている画像はシマサルスベリと判定しました。シマサルスベリは中国中部、台湾及び奄美諸島などの亜熱帯に分布するサルスベリの近縁種で、開花時期はサルスベリと同じですが、花の色は白のみです。サルスベリと比べると花が小振りです。樹皮はサルスベリよりも白く、幹は直立し、その美しさはサルスベリに勝ります。
*サルスベリとシマサルスベリの関係によく似ているのが、トネリコとシマトネリコの間の関係です。トネリコは落葉樹、シマトネリコは常緑樹です。