2018-01-01から1年間の記事一覧

閑話:「Xを忘れる」が示唆するもの

「憶えていないものは思い出せないし、忘れたものは憶えておらず、それゆえ、忘れたものは思い出せない。」これは当たり前の推論で、そこに登場する言明も正しいことから、つまらない自明の主張だと誰もが判断する。だが、「忘れる」、「憶えていない」(「…

アイスランドポピー

シベリアヒナゲシ(西比利亜雛罌粟)は、ケシ科ケシ属の植物。現在では和名のシベリアヒナゲシではなく、英名のアイスランドポピー(Iceland poppy)で呼ばれている。白と黄色だけの野生種と異なり、園芸種はオレンジ、サーモン及びローズピンク、クリーム、…

忘れること:幼児期健忘

健忘症は病気だが、病気でない健忘から考えてみよう。記憶の構成要素は記名,把持,追想の三つだと既に述べたが、時間的に限られた一定期間の経験をそれら全ての障害によって思い出せない状態が健忘である。人は赤ん坊の頃のことを憶えておらず、これが幼児…

ヒューケラ

ユキノシタ科ヒューケラ(ツボサンゴ)属は北アメリカにおよそ55種が分布する常緑の植物で、毎年育つ宿根草です。日本でも以前からツボサンゴ(ヒューケラ・サングイネア)と呼ばれる種が比較的普及していて、様々な葉色の園芸品種ができ、葉色のバラエティ…

忘れること

私のような年齢になると「忘れること」が日常茶飯事になる。「知ること」は意識的、意図的にできるが、忘れることはそうはいかない。憶えることが意識的にできるように、意識的に忘れることができたら嬉しい限りなのだが、憶えることの反対操作で忘れること…

ギョリュウバイ

遠目にも目立つ木が飛び込んでくる。花の少ない今頃は妙に存在感がある。ウメにしては早すぎるし、花が多過ぎると訝りながら、名前を調べると、その名はギョリュウバイ(檉柳梅)で、フトモモ科ギョリュウバイ属の常緑低木。ギョリュウバイという名はギョリ…

尋常でない世界の中の平凡で退屈この上ない経験

この世は無常で万物流転の世界だというヘラクレイトス的な世界観と、この世は恒常的で不変だとするパルメニデス的な世界観との対立を背景に置きながら、その具体的な一例となる「儚い命」と「命の不変性」の対立が様々な仕方で考えられてきました。そして、…

年号

年号と元号はほぼ同義でつかわれています。年号(元号)は「年につける称号」であり、漢の武帝の時(西暦紀元前140年)に『建元』と号したのが始まりのようです。日本の始まりは645年で『大化』と号しました。でも、年号と元号には違いがあります。明治天皇…

赤い実:センリョウとクロガネモチ

センリョウ センリョウ(仙蓼/千両)はセンリョウ科の常緑小低木。冬に赤い実をつけ美しいので栽培され、特に名前がめでたいのでマンリョウ(万両)などとともに正月の縁起物とされる。センリョウは千両の意味で、マンリョウやヒャクリョウ(百両)とも称さ…

象徴天皇

「日本の象徴」とはこの上なく曖昧な謂い回しである。「桜や富士山は日本の象徴だが、それと同じように天皇も日本の象徴である」と言われると、首を傾げる人がいる筈である。だが、「天皇は日本の象徴」、「天皇は日本国の象徴」、「天皇は日本人の象徴」、…

キンギョソウ

花が金魚に似ていることから命名されたのが金魚草。見た目は繊細でも、暑さにも寒さにも強い性質をもち、地中海沿岸の南ヨーロッパから北アフリカに自生している。キンギョソウは鮮明な色彩で色幅のバラエティに富み、これから春ににぎやかさを感じさせる花…

閑話:斜めから見て、正しく知る

「斜めから見る」とは、物事を素直でない捉え方をすることで、偏った見方をする、穿った捉え方をする、ひねくれた考え方をするなどと同じような意味で使われています。文字通りに斜めから見るのではなく、「斜め」も「見る」も比喩的な意味を込めて使われる…

湾岸風景

晴海、豊洲、有明辺りの風景は昭和の工業地帯の風景からすっかり変わってしまった。高層ビルが林立し、タワーマンションがその多くを占め、まだ建設が進み、変わり続けている。運河を行く船は減ったが、それでも色んな船が行き交い、水辺は次第に整備が進み…

イヌツゲとシャリンバイの実

イヌツゲ(犬黄楊)はモチノキ科モチノキ属の常緑樹で、豊洲市場の周りの公園に多く植えられている。見た目と名前がツゲによく似ているため、同じ仲間と思われがちだが、ツゲはツゲ科ツゲ属でまったく類縁関係がない。ツゲはたいへん成長が遅く、緻密でなめ…

朝の、冬富士と月

富士山はいつでもどこでも絵になるというのが日本人の常識だが、冬の富士は朝に限るというのもこれまた衆目の一致するところか。北斎も広重もそれぞれ朝の富士を描いている。写真画像は有明から見た数日前の朝の富士である。朝日に照らされる富士やレインボ…

閑話:不死と知識

自分の記憶など 憶えていたくもなし 忘れてもよし世界の退屈極まりない反復が記憶なら 記憶は何の意義もなし 昨日ジョン・ヴァーリイ(John Herbert Varley)について書いた。彼は私と同い年のアメリカのSF作家。 彼のSF小説が何を示唆しているのか、同年齢…

冬至の花たち

一年のうちで最も昼が短く、夜が長い日が冬至で、それが昨日だった。この日を境に昼間の時間は長くなるが、寒さは一段と厳しさを増してくる。冬至にユズ湯に入ると風邪をひかない、カボチャを食べると中風にならないなどと言われてきた。 最近は冬でも花が咲…

異常で異様な世界の経験

SF作家ジョン・ヴァーリイの描く世界では、クローン技術によって自由に変更可能な身体を持った人類が登場し、異星環境に適応する身体と脳内データの転移によって保存可能な精神とが重なり、不死が実現されている。これは今のSF作品では新奇な設定ではなくな…

ナリヒラヒイラギナンテン

クリスマスが近づき、あちこちに飾り付けが目立つ。セイヨウヒイラギはキリストの足元から初めて生えた植物で、赤い実はキリストの血と苦悩を表すと言われる。また、花はミルクのように白いためキリストの生誕と結びつき、樹皮は苦いのでキリストの受難を表…

現象や仮象、実在や物自体

彼岸でも此岸でも「仮象(Schein)」とは架空のもの、フィクション、創作のことです。それは偽物というより実在しないものなのですが、文学作品の中の仮象は重要な意味をもっていて、構成される仮象は作品に欠かせない登場人物や舞台になるのです。。プラト…

ストックとレケナウルティア

今花壇に多いのがパンジーとストック。洒落た感じで一緒に植えられている場合が目につく。ストックの花色は紫、ピンク、白、ブルー、クリームと色々で、花には甘い香りがある。 ストックの仲間は南ヨーロッパ、北アフリカ、西アジアに約50種が分布するアブラ…

生活世界では当たり前の素朴実在論から眺めると…

初恋の相手が実在しないと困るかと問われると、そうでもないと答える人が案外多いのかも知れない。相手を勝手に想像する傾向が強く、自分の気持ちだけが先走るのが初恋の特徴だとすれば、ある程度は合点がいく。何度も恋愛経験をもち、分別ある恋をするよう…

ヒメリンゴ(姫林檎)

子供の頃、向かいの家の庭にヒメリンゴの木があり、何度かその木にのぼって小さな実を食べたのを憶えている。その味は、酸っぱく、渋く、まずかった。正式の和名はイヌリンゴ(犬林檎)で、ヒメリンゴやミカイドウ(実海棠)は別名である。バラ科の落葉高木…

花の咲く時季は何を暗示するのか

歳をとると何事にも心配が先に立ち、杞憂が安堵に優先する。今年の夏も暑かったが、「温暖化」という言葉がいつも常套句のように響いていた。そんなことが記憶に残ると、人は何でも温暖化に結びつけたくなる。 花には「狂い咲き」、「二度咲き」といった現象…

我流の哲学史雑感(13)の最後の疑問

「我流の哲学史雑感(13)」の最後は「アプリオリな総合判断」はそもそも可能なのだろうか。」で終わった。その解答を考えようというのが以下の内容である。 いつでも真の文はトートロジー(tautology)。「今日は晴れているか,あるいは晴れていないかであ…

冬靄

「冬靄」は冬の大気に低く立ちこめる煙のような霧のことで、比較的暖かい日に発生するという。昨日は朝方の雨が上がり、午後は晴れ渡った。そのせいか靄が出て、周りが靄った。冬の靄のかかった東京湾はいたって静かだった。

我流の哲学史雑感(13)

バークリーの唯心論 唯心論的な観念論はバークリー(George Berkeley 1685-1753)に始まる。バークリー以前の観念論は、人間の精神活動から生じる観念を実体的なものと捉えており、それを個人の精神活動のなかに閉じ込めることはなかった。観念的なものはそ…

非常識あるいは常識から常識あるいは非常識へ

伝統的な考えや立場に対する疑問や批判はそれらを否定するための挑戦であり、新しい考えや立場の主張です。通常、前者は常識、後者は非常識と受け取られてきました。非常識が常識を破り、新しい常識になる、そしてその常識がまた覆る、といった変革が何度も…

ミツマタの蕾

公園の常連となったミツマタは落葉性の低木で、ジンチョウゲ科に属する。中国中南部・ヒマラヤ地方が原産地で、3月頃に黄色い花を咲かせる。ミツマタは新葉が芽吹く前の枝先に花だけ先に開花する。下を向いて咲く花には芳香があり、小さな花が集まって半球形…

自然との「共生」(「自然の誘惑、自然の搾取」増補改訂版)

「共生」という言葉は耳に心地よく響きます。そのためか、生物学だけでなく、福祉、環境、文化、社会などの幅広い分野でキーワードとして引っ張りだこです。「多文化共生」、「男女共生」、「地域共生」などの熟語があちこちに溢れ、使われています。「共生…