「タイサンボク(泰山木、大山木)」という名前は花、葉、樹形などが大きく立派なことから、中国山東省の泰山に喩えたもの。また、花の形を大きな盃に見立てて「大盃木」、それが訛って「泰山木」になったという説や、大きな樹形が大山のように見えるところからつけられたという説もある。その花の直径は30センチにもなり、日本の花木では一番大きな花を咲かせる。私はタイサンボクが中国原産だとずっと信じて疑わなかった。だが、文化や常識には嘘が含まれていて、私など簡単に騙される。だからこそ文化や常識は魅力的で、興味深いのだが…
タイサンボクはモクレン属の常緑樹で、学名はMagnolia grandiflora。モクレンは3月から4月初旬に開花するが、タイサンボクは今花が咲いている。タイサンボクの花は頭上のものが多く、そのため、下から指をくわえながら見上げるしかない。タイサンボク自体は北米南部が原産で、なんとミシシッシピー州とルイジアナ州の州花。
モクレンは中国原産、タイサンボクは北米原産となれば、ハスとスイレンを連想してしまう。ハスの原産地はインドで、先史時代に渡来したようだが、スイレンはヒツジグサ、エゾノヒツジグサが日本に自生し、それら以外は渡来したものを交配した園芸種で、これも私たちの常識とは随分と違っている。
映画「Steel Magnolias(マグノリアの花たち)」の舞台はルイジアナ州。タイトルのマグノリア(タイサンボク)は州花で、南部女性の代名詞として使われてきた。タイトルの「Steel Magnolias」は「鉄のマグノリア」だから、花のように優雅に見えても、鉄のように頑強な心をもつ南部女性という意味である。やはりアメリカ南部のサウスカロライナ州の田舎町セレニティを舞台にしたのが「Sweet Magnolias」。こちらはこの町に住む3人の女性を中心に町の日常生活を描いているテレビドラマ。「優しく、鉄のような」マグノリアとなると、非の打ち所がないように見えるが、樹木としては意外に隙だらけで、だらしない印象を私は持っている。花も散り際はやはりだらしない。
ところで、ハスやスイレンに似た歴史を持つのがモクレンやコブシ。ハスもモクレンも私には仏花の代表。だから、モクレンもコブシもマグノリアの仲間で、アメリカ南部を代表する花の親戚だということがピンとこないのである。そして、植物としての近縁関係と、生活の中の花としての近縁関係とが一致していない典型例になっているのである。
私の違和感は移入種や園芸種が国際的、大域的であることを考えるなら、格段取り上げる必要のない、誤った違和感に過ぎない。移入種や園芸種であることはローカルだったものが大域化、国際化されたことなのだから。



