この図形あるいは物体はどのような意味で「ありえない」存在なのか?

f:id:huukyou:20190417063200p:plain

ペンローズの三角形


 まず、「ペンローズの三角形」と呼ばれる図形を見てほしい。多くの人はフィッシャーの絵に使われている一要素だと思うのではないか。この図形が二次元上の対象であれば、実際に二次元の平面に描かれているので、その存在は可能どころか、既に実現している。これは改めて証明する必要のない事実そのものである。なぜなら、この図形が端的に紙の上に描かれて「ある」からである。
 一方、これが物理的な物体を描いた画だとすると、描かれた物体がありえないというのが大方の答えになる。もっともらしい答えに思えるが、「ありえない」という理由は何だろうか。恐らく、物理世界は三次元空間で、その中で物体が存在するには三次元空間の制約に従わなければならない。だが、この図形はその制約に従っていない。というのも、前後、左右、上下の(組み合わせの)秩序が守られていないからである。二次元の世界では存在できるものが、三次元では存在できないというのがこの例である。
 だが、三次元の世界には二次元の世界が含まれている。だから、二次元の表面をもつ紙は三次元の世界に存在する。その紙に描かれた図形は、紙が三次元の世界に存在するゆえに、書かれた絵としても存在する。だから、この図形は三次元の世界に存在すると結論できる。
 さて、二つの異なる結論が得られてしまったが、どのような意味で「ありえない」かは明らかになった。物理的な物体としてはありえないのである。だが、紙に書かれたこの図形を切り抜いたものも物理的な物体である。三次元世界に存在するこの切り抜きは紙の一断片としての物理的な物体であるが、紙に描かれた三次元の物体としては存在していない。
 これまでの話は、「紙に書かれた「ペンローズの三角形」は存在するが、この世界にペンローズの三角形は存在しない」、ということと基本的には同じことである。だから、フィッシャーの描いたようなだまし絵が存在し、人々を驚き、それを楽しむことができる。
 紙に描かれたこの図形は物理的な物体ではなく、情報なのである。描かれている普通の立方体は立方体そのものではなく、立方体の情報であり、その描かれた立方体の指示する対象が3次元の立方体なのである。これまで「記号系列とその指示対象」と捉えられてきたが、「情報とその情報の内容」と捉える方が適切に思われる。
 そこで、次の画像を見てほしい。これは実際にオーストラリアのパースにあるペンローズの三角形である。これは三次元の世界に実際に存在しているように「見える」。上述のことから、ペンローズの三角形が三次元の物理的世界に存在することはあり得ないのだから、見えるだけで「ある」ことではないと推理してほしい。事実、その通りで、一定のアングルで見た場合のみ三角形に見えるというわけである。これは広義の錯視なのかも知れないが、脳が知覚像をペンローズの三角形だと誤解することによって起こるのである。手品のように種を明かせば、ややこしいことではないのである。

f:id:huukyou:20190417063332j:plain

f:id:huukyou:20190417063403j:plain

実際の物体