シラン:頭の体操

 「白山吹」と「白花山吹」が違うように、「白花紫蘭」と「白蘭」が違う訳ではなく、「白花紫蘭=白蘭」です。そこで、二つを「白い紫蘭」と呼んだとすれば、「白い紫蘭」は「丸い三角形」と同じように、矛盾した概念で、それゆえ、存在しないものだと結論してよいのでしょうか。これは杓子定規で、融通の利かない結論に見えますが、果たして正しいのでしょうか。

 シラン(紫蘭)の定義は経験的なもので、それゆえ、歴史的、地域的に変化します。普通なら、シランの定義の中に特定の花の色は入っていません。定義は随時改定可能であり、それが経験的な知識の本性の一つなのです。でも、三角形の定義は時空を超えていて、その定義の中には円も曲線も入っていません。ですから、白色の紫蘭は存在可能ですが、丸い三角形は存在できません。

 紫蘭の定義は既述のように、経験的なもので、私たちの経験が変化すれば、それに応じて定義も変化して構いません。三角形の定義も幾何学の種類が変われば、変わって構わないのですが、ユークリッド幾何学の中では円と三角形は異なる定義をもち、円は三角形ではなく、三角形は円ではありません。

 ですから、白い紫蘭の画像は見ることができるのですが、ユークリッド的なモデルの中では(つまり、君のノートには)丸い三角形を描くことができないのです。

*シランはランの仲間で、野生のものは何と準絶滅危惧種です。でも、園芸品種として広く普及していて、今はあちこちで赤紫色の花を咲かせています。ラン科の植物には珍しく、日向の畑土でも栽培でき、庭や公園に広く植えられています。とても丈夫で、とかく栽培が面倒なランの仲間ではこの花ほど親しまれているランはありません。そのためか、野生種か植栽かの区別がつかなくなっています。

 シランの花は紫紅色ですが、花の色が白色のもの、斑入りのもの、淡色花、花弁が唇弁化した「三蝶咲き」などがあり、画像は紫紅色のシランと白花のシランです。