日本の積極的疫学調査

 韓国では3月5日現在、PCR 検査を受けた人が延べ14万775人。その結果、5776人の感染者。日本の検査数は3月4日現在、延べ8111件で、韓国の17分の1ほど。韓国は「疑わしき者は検査する」という方針から、重症者に限らず、無症状者、軽症状者にも検査し、発見によって感染経路を辿り、接触者を探し出すことを優先させています。 韓国のPCR検査はどの国よりも多く、韓国の感染者が増大しているのは速やかに感染者を探し出し、公開していることの証であるように見えます。韓国の感染者が日本よりも多いのはPCR検査数の差である、といった報道をよく聞きますが、PCR検査については各国異なる考え方をしていて、それが感染症の対策にも影を落としているようです。

 日本でもPCR検査が保険で受けられるようになり、「積極的疫学調査」はますます馴染めない用語になっていますが、日々の各都道府県の感染者とクラスターについての報告はこの疫学調査に基づいています。2月28日にクラスター対策のスキームが出され、「クラスター対策班」がつくられました。それを反映した厚労省の「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領(暫定)」が3月12日に出されました。これから、現在の国、都道府県の今の検査と捜査の活動内容を窺い知ることができます。

 積極的疫学調査PCR検査とその活用のことだと考えてよく、クラスター対策班が働き出す3月4日から急速にPCR検査数が増えます。その理由は、検査によってクラスターを潰すためです。「東洋経済新型コロナウイルス国内感染の状況」では継時的に検査数の変化がわかります。日本のPCR検査が積極的疫学調査の核心にあり、それゆえ、各都道府県がどれだけクラスター捜査を行っているかの指標が都道府県のPCR検査数だと言ってもいいでしょう。例えば、3月11日の感染者と検査数のデータについて、和歌山は14名の感染者に対して982名も検査して接触者を徹底して追求したのに対し、東京都は79名も感染したのに、922名しか追跡の検査をしていません。和歌山はクラスターを潰すために東京よりは徹底して捜査したと読めます。でも、北海道の場合、118名の感染に対し、1069しか検査していません。これには北海道の特別な理由がある筈で、北海道のホームページの記録、説明を探すことになり、その結果、北海道独自の活動が見えてきます。他国の検査と違って、日本の検査は疫学調査で、あくまで感染者、あるいは感染の疑いのある者に対して行うという(韓国などから見ると)不思議なものです。感染を見つけるのではなく、感染を確認するための検査なのです。この違いを正確に説明し、どのように考えるか、私たちの宿題として、落ち着いたところで向き合う必要があります。

 韓国やイタリアでのPCR検査と日本のそれが何が違うか、これまでのことから明白です。言い換えるなら、感染者の同定のための検査とクラスター捜査のための検査の違いです。むろん、韓国やイタリアのように感染が突然爆発的に起こると、クラスターの構成を調べ、確実に一人一人を突き止めることは難しくなり、検査で見つかった感染者を隔離することで精一杯ということになります。

 新型コロナウイルス感染症は指定感染症のため、感染がわかれば入院隔離しなければなりません。しかし、既に韓国、イタリアで起きているように、感染者が増えるとすぐに病院への収容はできなくなります。その点で、大阪のアイデアは一考に値します。医療システムを保持しながら、必要な医療装置や物資を準備し、感染者に立ち向かうことが不可欠なのです。また、感染者が増えるとPCR検査数も当然増えることになり、丁寧なクラスター潰しはできなくなっていきます。すると、今度は必要な人々を新型コロナウイルスから守ることが必要になります。

 学校だけでなく、日本全体が休業する、つまりは国民休日を何日か設ける、それでも駄目なら、休日の外出禁止とすべての交通機関の運休等々、色んな手立てが考えられます。動物である人を一時的に植物化して、動きを止め、息をひそめて、その間に新型コロナウイルスに対処する様々な工夫を考えるということになるのでしょう。今の私たちにはそのようにならないことを祈り、医療体制を整え、着実な捜査によるクラスター潰しを徹底することが求められています。