感染症と医療

 タイトルが「新型コロナウイルスSARS-CoV-2のゲノム分子疫学調査」という報告書のようなものが国立感染症研究所から4月27日に出された(このタイトルで検索すれば手に入る)。2月の武漢からのウイルスのゲノムと3月のヨーロッパからのウイルスのゲノムが分子レベルで変異のあることがわかり、第一波はクラスターを追跡し、抑え込むことができたが、第二波は行動制限が不十分で、大都市圏で感染が拡大した。さらに、第三波、第四波が必ず来る、といった内容で、実質は2ページに満たない。

 報告の言葉遣いのためか、とても読みにくい。気になるのはそれだけでなく、今の流行の原因が行動制限の不十分さにあるという見方は専門家会議とほぼ同じであり、行動変容を徹底し、接触8割減を実現すれば流行はおさまるとする見方である。3月中旬以降の感染拡大の理由は行動制限の不十分さの他にもあり、PCR検査の絞り込みと、医療体制の準備をしなかったこともその理由なのだが、それらは一切触れられていない。感染者数を減らすという疫学の目的だけ考えるなら、接触8割減は(数理モデルの予測からも)その目標達成に不可欠なのだが、感染者を見つけ、治療し、それによって感染者を減らすという医療の観点からは「検査の拡大・充実と隔離の徹底」が必要になってくる。この両方が共に機能しないならば、感染者を減らし、流行を終息させることができない。

 専門家会議は12名のメンバーからなり、1名が弁護士、2名が臨床系の医師、他は感染症学や公衆衛生学の研究者であり、現場の医療に関しては不十分。そのためか、専門家会議の会見でも、医療に関わる「検査の拡大・充実と隔離の徹底」は正面から取り上げられておらず、そのため具体的な対応がなされてこなかった。連休中に日本医師会が中心になって保健所、地方衛生研究所、国立感染症研究所のラインではなく、それとは独立した発熱外来とPCR検査、軽症・中等症・重症の振り分けを行う組織を全国の保健所内か中核の病院の近辺につくり、保健所の仕事を分離し、保健所から独立した仕方で行うことが求められる。(クラスター対策班だけでなく)医療対策班もつくり、全体の運営を統括することが必要ではないのか。