初冬のバラとキク

 桜と菊は多くの人に国花と思われ、春の桜に対して秋を象徴するのが菊。鎌倉時代の初めに後鳥羽上皇が菊の花を好み、「菊紋」を皇室の家紋とした。それが菊の好まれる第一歩で、それ以来、菊は高貴な花ということになり、『菊と刀』が生まれた。

 キクは7~8世紀に中国から渡来したが、バラは日本に自生していた。バラの先祖を辿っていくと、アジアから日本にかけての自生種8種類に行きつく。バラの原種のうちの3種類、ノイバラ、テリハノイバラ、ハマナスは日本原産である。

 キクの花には日本で古くから親しまれてきた「和菊」と、西洋が原産地の「洋菊」との2種類がある(和菊といっても上記から日本原産ではない)。洋菊の代表の一つがスプレーマム(スプレー菊、Dendranthema grandiflorum)で、1本の茎から枝分かれしてたくさんの花をつける。アメリカで品種改良され、スプレー状に花をいくつも咲かせるため、湾岸地域でもあちこちで見ることができる。

 ところで、ベネディクトの『菊と刀』とエーコの『薔薇の名前』を混ぜ合わせることなど当然できないが、二つの植物となると、どうだろうか。かつてはキクとバラは異なる本質をもった植物と考えられていたが、遺伝子工学の進展によって、その遺伝子を操作することが可能になった。キクとバラは系統的に遠縁のため、直接の交雑はできないが、遺伝子組み換えによって、青いキクの花が生まれ、青いバラの花も誕生している。ものを操作し、変えることができるという錬金術的な夢が生物学や医学を推進する力の一つになっていて、その結果として「菊と薔薇」の「と」がとれて、「菊薔薇」がいずれ生まれることになるのだろう。

*「野薔薇」と「野菊」はよく聞く名前だが、それに対応するバラとキクの一例がノイバラとノコンギク