茨(いばら)と薔薇(ばら)

 『万葉集』、『常陸風土記』にはバラが登場しています。防人の歌はノイバラを指し、『源氏物語』や『枕草子』にも「そうび(薔薇)」の記述があり、これは中国から渡来したコウシンバラだと考えられています。日本には原種の野バラが宮中などで栽培されていて、江戸時代にはそれらが広く栽培され、江戸末期には西洋バラも栽培され出しました。

 キクは7~8世紀に中国から渡来しましたが、バラは日本に自生していました。バラの先祖を辿っていくと、アジアから日本にかけての自生種8種類に行きつきます。バラの原種のうちの3種類、ノイバラ、テリハノイバラ、ハマナスは日本原産です(画像は野生のノイバラ、ハマナス)。

 「人生は茨の道」と言われ、「薔薇色の人生」とは大違い。でも、イバラは棘のある木の総称(茨、棘、荊)で、日本の「薔薇」の原種「ノイバラ」の古称です。ノイバラ(野茨)はバラ科の落葉性のつる性低木で、別名はノバラ(野薔薇)。ノイバラの花の直径は2~3センチで、ナニワノイバラより小さくても、芳香は強く、香水にも使われます。

 中国原産のナニワイバラが何年も近くのフェンスで花をつけていたのですが、大幅に枝打ちされ、今年は花をつけていません。ナニワイバラは日本に宝永年間に渡来し、大阪でこのノイバラが売られていたことから、「難波のバラ」という意味で「ナニワイバラ」と呼ばれるようになりました。

 さて、ナニワイバラとハマナス(浜梨)の画像を見比べれば、それぞれの花はよく似ていて、花だけでは区別が厄介で、二つがバラの仲間であることが納得できます。実際、ノイバラ、ナニワイバラ、ハマナスの交雑種がいくつもあります。

 ハマナス(浜茄子、浜梨)はバラ科バラ属の落葉低木。自生する野生のバラで、ナスでもナシでもありません。ハマナスは湾岸地域には意外に多く、あちこちに植えられています。開花時期は6月中旬までで、夏には実がつきます。ハマナスは英語で「Ramanas Rose(ラマナス・ローズ)」と呼ばれ、日本語の「ハマナス」が元になったようです。ハマナスの名前が広く知られるようになったのは、1960年に森繁久彌が作詞作曲した「知床旅情」で、私もこの歌詞でハマナスの存在を知りました。

 「野ばら」と言えば、シューベルトの歌曲ですが、野生のバラは「ノイバラ」。純白の5枚の花弁と黄色のシベ、椿のような照り葉、淡い芳香、たくさんの棘などが特徴の原種バラがノイバラです。有棘の低木類のバラを茨(いばら)と呼んでいて、野生であることから「野」がついて「ノイバラ」となりました。その別名がノバラ(野薔薇)で、日本のバラの代表的な原種です。日本ではバラの野生種が人類よりも早くから自生していて、14種ものバラの野生種があります。

 こうして、「薔薇」はバラ科バラ属に属する植物の総称、「茨」は棘のある植物の総称で、ノイバラもハマナスも日本原産のバラだというのがとりあえずの結論です。

*画像はノイバラ、ナニワイバラ、ハマナス、そして園芸種のバラ

ノイバラ

ナニワイバラ

ハマナス