ツユクサの花の青色

 ラピスラズリが原料の顔料がウルトラマリン。青色のものがウルトラマリンブルー、あるいはフェルメール・ブルー。高価なウルトラマリンは19世紀に人工顔料として合成されるようになる。それが「紺青」で、日本ではベルリン藍がなまってベロ藍と呼ばれた。広重や北斎の作品に多用されたことから、広重ブルー、北斎ブルー、ジャパンブルーなどとも呼ばれている。1704年にベルリンのヨハン・ディースバッハによって偶然発見された。

 ツユクサは夏の早朝に鮮やかな青色の花をつける。子供の頃に見た、朝露の中のツユクサの花はよく憶えている。花の色はうつろいやすく、通常はこれを長く留めておくことは難しい。その理由は、植物の花の発色がアントシアニンと呼ばれるイオン性の色素分子に基づくことが大部分で、それが安定しておらず、かつ水溶性が高いことによる。

 ツユクサは古くから「月草、鴨頭草(いずれも「つきくさ」と読む)」と呼ばれていた野草。このツユクサの大花の栽培変種がオオボウシバナ(青花、私はこのツユクサを見たことがない)。この花の青色色素も鮮やかな青を示し、水に晒すと全て溶出する。ツユクサの仲間の青色色素の水溶性の高さは古くから知られていて、万葉集には移ろいゆくツユクサの青を詠んだ歌が幾つもある。青花は琵琶湖周辺の特産植物で、青花は友禅染などの下絵書きに用いられ、貴重な青色染料として、浮世絵摺りに使われ、あるいは行灯や団扇の張り紙の着色にも用いられた。水に濡れさえしなければ、紙を染めた青花の色はかなり高い安定性があり、特に着色した紙を光に透かした青色が美しい。浮世絵の青は、初期には青花を用いたが、その後は安価でぼかしが容易なベロ藍の出現により浮世絵用の青色色材の座は奪われてしまった。

 ツユクサの青はベロ藍とはどう違うのか。絹を染めるようにツユクサの青を使い、不透明な藍の絵具に比べ、露草の青は和紙によく浸透し、非常に深みのあるものになる。藍には出せない、青色が露草にはあることを職人達は知っていたのかも知れない。

ツユクサの花色に似たソライロアサガオの花とも比べてみてほしい。関心のある方は次の色の名前と色見本を確認してほしい。露草色、鴨頭(つきくさ)色、紺青(プルシャンブルー)、群青(ウルトラマリン)