ジャノヒゲの実

 「ジャノヒゲ(蛇の髭)」と聞くと、蛇に髭があったかどうか訝る人が多いのではないか。ジャノヒゲは東アジアからフィリピン、日本に広く分布する、キジカクシ科ジャノヒゲ属の常緑多年草。ジャノヒゲの葉が能面の「尉(じょう)面」の顎鬚(あごひげ)に似ているためにジョウノヒゲと呼ばれ、それが変化してジャノヒゲとなったようである。古名は「ヤマスゲ」で、『万葉集』に登場。別名は葉が龍に似ていることから、リュウノヒゲ(龍の鬚)。

 夏に咲く花はくすんだ薄紫色、あるいはクリーム色で、花の後には直径8ミリほどの丸い実ができ、秋になると瑠璃色に熟す。濃い緑の中にきりっと映える濃いブルーの実は、真冬の今も見ることができる。

 その瑠璃色の実はラピスラズリを連想させる。ラピスラズリの瑠璃色はフェルメールが好んで使ったことからフェルメール・ブルーと呼ばれ、さらには、インディゴブルー、ロイヤルブルー、ミッドナイトブルー、マリンブルーなど、様々に呼ばれるラピスラズリの典型的な色相は僅かに緑がかった青からすみれ色がかった青である。文政末期から天保年間に入ってきた顔料プルシャンブルーは、ベルリンで発見されたことから「ベロ藍」、「北斎ブルー」とも呼ばれてきた。

 ルリミノキ、サワフタギも似たような瑠璃色の実をつける。サワフタギの別名は「ルリミノウシコロシ(瑠璃実の牛殺し)」。瑠璃実の後に付く「牛殺し」の名は、牛の鼻輪を作るくらい木が硬く、頭をたたくと牛が死んでしまうことから。また、「ムラサキシキブ」は秋に美しい紫色の実をつけるが、クサギの実は6~7mmの球形で光沢のある藍色に熟す。藍のようには濃く染まらないが、生のままで美しい浅葱色に染まる。

 今でも、瑠璃色、群青色、藍色、紺青色(プルシャンブルー)等々、豊富な呼び名が「和の色」として残っている。

*最後の画像がクサギ

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