ハスとスイレン

 仏教の花は蓮(ハス)。蓮の中で「睡眠する蓮」が睡蓮(スイレン、眠る蓮)」と命名され、未の刻(13~15時)に花が開く在来種には「未草(ヒツジグサ)」と名前がつけられても、どれも仏教では極楽浄土の花。蓮華(れんげ)はハスやスイレンなどの総称です。イスラム教では、白バラは創始者マホメットを、赤バラは絶対神アラーを象徴しています。白ユリはキリスト教の花の代表。既述のように、ユリは聖母マリアの象徴として「マリアの花」とよばれ、純潔や美徳のシンボルです。神道では榊(サカキ)を神に捧げる行為が日本神話にあり、神棚に使われています。異なる宗教システムに応じて象徴に使われる花はバラバラです。当然、象徴される内容も違っていて、複数の異なる信念システムは科学システムとの違いを際立たせています。

 極楽浄土には青、赤、黄、白の蓮の花が咲いていて、蓮は釈迦や仏、極楽浄土のシンボルです。「蓮(ハス)」と「睡蓮(スイレン)はよく似ています。よく混同されますが、ハスはハス科ハス属、スイレンスイレンスイレン属で、実はまるで違う植物です。ハスもスイレンも水辺から上に向かって花を咲かせます。ハスとスイレンは水生植物で、水の底の土や泥に根を張り、水面(水上)に葉と花をつけます。午前中に満開になり午後には閉じてしまいます。ハスは挺水植物(ていすいしょくぶつ、水面から葉を立ち上がらせる植物)ですが、スイレンは浮葉性植物(ふようせいしょくぶつ、水面に葉を浮かべる植物)です。花が水面に咲くのがスイレンで、水面より上の方で咲くのがハスです。

 生物種としてのハスとスイレンは別物でも、仏教では蓮華として同じとされます。でも、ふるさとでのハスとスイレンはそのいずれとも異なる好対照な扱いを受けています。

 明治4(1871)年、高田藩戊辰戦争と大凶作による財政難に苦しみ、それを打開しようと、戸野目の大地主保阪貞吉が自身の財産を投じて、堀に「れんこん」を植えたのが始まりです。れんこんは昭和37(1962)年まで採取されていたとのことで、私が中学生の頃はまだレンコンを採取していたのです。内堀に対して外堀の水は汚く、泥水だったのを憶えています。

 いもり池は農業用水のための池で、園芸用のスイレンが次第に増え始め、終には水面全体を覆うほどに繁茂してしまい、「逆さ妙高」の姿を見ることもできなくなりました。そこで、何年もスイレン駆除が初夏の行事のようになってきました。国立公園内の駆除として、オオハンゴンソウの駆除と並んで、ボランティアを募っての活動になってきました。

 このように、どちらも人の係わりが強いことがはっきりわかります。ところが、人の都合によってハスとスイレンに対する態度は大きく異なります。いもり池のスイレンは駆除しかないと思われていますが、高田城址の外堀のハスは住民に好意的に受け入れられています。