上越市の高田城址公園の外堀のハスはつとに有名だが、近年は妙高市のいもり池のスイレンの悪名が高い。ハスとスイレンの外観はよく似ているが、どうもそれは見かけだけに過ぎないようである。いもり池の水面はスイレンに占領されてしまい、池に映る「逆さ妙高」は見えにくくなり、他の生物への影響も心配されてきた。上越市では蓮まつりが毎年行われているのに対し、妙高市では毎年いもり池のスイレン駆除が環境省等によって行われている。よく似た花にもかかわらず、ハスは愛でられ、スイレンは疎んじられてきた。50歳からこの世を去った86歳まで、スイレンをモチーフとした作品を200点以上も描き続けたモネがハスをどのように描くか知りたいのは私だけではあるまい。
だが、ハスとスイレンとでは雲泥の差がある。今私たちがよく見るスイレンはいくつかの野生種を交配、品種改良し、それによってつくられた園芸種が野生化したものである。野生種のスイレンであるヒツジグサは日本に自生するスイレンだが、今いもり池を支配するスイレンは園芸種が野生化したもの。
ところで、よく間違われるハスとスイレンの違いは何だろうか。スイレンとハスは共に夏の花で、その外観もとてもよく似ている。そのため、スイレン科とハス科はともにスイレン目に属すると考えられていたが、近年の分子系統学の進展によって、二つは系統が異なることがわかった。
・白スイレン(学名:Nymphaea lotus)
白スイレンは東アフリカや東南アジアに分布する、スイレン科スイレン属の多年生水生植物。英語では「Egyptian White Water Lily」。地下茎から茎を伸ばし、水面に葉と花を浮かべる。花の色は白で、夜に開花し、午前中に花を閉じる。
・青スイレン(学名:Nymphaea caerulea)
青スイレンもスイレン科スイレン属の多年生水生植物で、東アフリカのナイル川沿いなどが原産地。英語では「Egyptian Blue Water Lily」。地下茎から茎を伸ばし、水面に葉を浮かべる。花柄を水面より上に伸ばし、青い花をつける。午前中に花を開き、午後に花を閉じる。
・ハス(学名:Nelumbo nucifera)
スイレンがエジプトなら、ハスの原産地はインドで、ハス科の多年生水生植物。地下茎から茎を伸ばし、水面に葉を出す。水面から高く花柄を伸ばし、白やピンクの花をつける。早朝に花を開き、昼には花を閉じる。地下茎は肥大して蓮根になる。
『阿弥陀経』によれば、極楽に咲くのが蓮の花。蓮の花のもつ五つの特徴(蓮華の五徳)が正しい信心の特徴に合っているからで、生きているときに正しい信心を得た人は、極楽の蓮の台に生まれると説かれている。如来や菩薩の台座は蓮肉である。
だが、これらはいずれも人の生活世界のローカルな都合、事情であって、ハスやスイレンにとっては余計な雑音に過ぎない。