環境保全と環境保存(保護):いもり池のスイレン駆除

 保全は英語でconservation、その意味は「人間に被害が及ばないように自然環境を保護する」ことであるのに対し、保存はpreservation、「自然環境はそれ自体価値をもつので、それを保護する」ことです。つまり、「人間のために自然を守るのが保全」、「自然のために自然を守るのが保存」ということになります。また、保存と保護がほぼ同義だとすると、

 

保全=人間がある程度手を入れながら管理していく、

保護=人間は一切手を触れずに守っていく、

 

と解釈できます。「保全の思想は自然環境を人間のための道具であるとみなすのに対し、保存、保護の思想は自然環境それ自体に価値が備わっているとみなすので、二つは随分と違います。こうして、「環境保全」は「自然を人間のために守る」ことであり、「環境保護」は「自然を今あるままに保護する」ことです。自然に人間が手を加えた場合、保護ではなく、保全となり、保全は人がある程度自由に手を加えて人のために自然を生かすことです。

 このような杓子定規な定義に従うなら、いもり池のスイレン駆除活動は環境保護活動ではなく、環境を一部破壊する環境保全活動ということになります。

*いもり池は夏に向かってスイレンが水面を覆うように繁茂します。そのため、水面に映る妙高の姿は見ることができなくなり、いもり池の水質が悪化し、他の生物に悪影響を与えてきました。そのため、毎年スイレン駆除が行われてきました。

 ところで、札幌市で全国初の「動物園条例」が成立しました。動物園条例は動物の芸を禁止するなど「動物の福祉」を重視し、野生に近い飼育環境を目指しています。動物の曲芸など、動物本来の生態と異なることをさせることが円山動物園では禁止となりました。世界の潮流は「野生に近い飼育環境」の実現にありますが、円山動物園もそれを目指して取り組んでいくことになります。

 動物園と農業用ため池としてつくられたいもり池はいずれも人造のものであり、その点では似ているのですが、いもり池は植物園ではありません。また、妙高高原の自然景観を構成する重要な部分としてのいもり池の役割は円山動物園にはほぼありません。動物園や植物園の意義や役割は時代と共に大きく変わり、現在は「生物多様性保全」というお題目でまとめられています。いもり池のスイレン駆除も同じお題目で捉えることができます。

 こうして、自然環境を守るためのスイレン駆除を「いもり池の福祉活動」と捉えることができます。いもり池は人造の池でありながら、今では周りの自然環境に溶け込み、池の平の景観を作り出しています。そのいもり池が人の持ち込んだスイレンによって水面が蔽われてしまうのを防ぐのは、いもり池に対する福祉活動と考えることができます。