椿と桜の風景(1)

 速水御舟の「名樹散椿」は椿の名画として有名であり、桜の名画となれば、奥村土牛の「醍醐」だろう。だが、椿と桜の両方が描かれた名画は何だろうか。「ツバキカンザクラ(椿寒桜)」という名前を聞くと、少々不安になる。「それはツバキなのかサクラなのか」と妙に問いたくなる(実際はサクラの園芸品種で、カンヒザクラ(寒緋桜)とカラミザクラ(唐実桜)の雑種)。

 椿と桜の花の散り方も好対照である。私などは、

 岡本かの子 桜花ちりて腐れりぬかるみに黒く腐れる椿がほとり

と詠まれると、何となく納得するのだが、「椿の花が散るときに花全体が落ちるのは、花弁と雄しべが一緒に落花するからで、この散り方が山茶花との違いになる。それが私たちに侍や武士道を感じさせてきた。一方、桜は風に舞い散るように散り、それが「桜吹雪」と言われ、その散り際の美も古の昔から愛でられてきた。」と断定されると、鼻白んでしまうのもこれまた確かである。

 桜の木を見上げると、桜の花が散る。背の低い梅の花を同じ目線で見ると、梅の花がこぼれる。秋には萩もこぼれる。そして、椿は花弁がそれぞれ散るのではなく、萼と雌しべを木に残して丸ごと落ちる。朝顔は昼前に花が閉じ、そこから花がしぼむ。牡丹は花びらが一挙に散り行くことから、くずれる。菊は枯れると花びらが垂れ、その垂れた花びらが風に吹かれ、踊る様に見え、そこから花が舞う。さらに、薔薇は枯れる、紫陽花はしおれる。このような表現の違いは様々な意味を持っているが、中でも桜と椿は好対照であり、私たちの自然観をつくる重要な植物になってきたことが窺える。

 そんなことから、今咲き揃っている桜と椿の風景を眺めながら、早春の景色を暫し楽しんでみよう。