「オミナエシ」雑感

 春の七草ハハコグサはありきたりの雑草ですが、黄色い花の集まりと白い綿毛に包まれた茎葉の組み合わせはとても魅力的です。それに対して、茎葉は同じように白い綿毛をまとっているものの、目立たない茶色の花を咲かせるのがチチコグサ。ハハコグサとチチコグサは、オミナエシ(女郎花)とオトコエシ(男郎花)のように、片方を女性、もう片方を男性に例え、名付けられています。でも、男女と父母は違います。セックスとジェンダーの違いと並んで、男女と父母の違いはもっと考えられるべきなのですが、オミナエシハハコグサの方がオトコエシやチチコグサより確かに人々に好まれてきたようです。

 花姿が美女を圧倒する美しさを持っていたことから、「女郎花」という名前がつけられました。「女郎」はかつて「若い女性、高貴な女性」を表す言葉でした。また、おこわが「男飯」、粟(あわ)ごはんは「女飯」。花が粟のように黄色くぶつぶつしていることから「女飯」が「おみなえし」になった、という説もあります。今ならその外観はサフランライスといったところか。漢字で「女郎花」と書くようになったのは平安時代中期からと言われています。オミナエシも白い花のオトコエシも共にオミナエシ属で、交配可能となれば、でき上がるのがオトコオミナエシ(男女郎花)。今なら、女男郎花もありでしょう。確かに人の社会も昨今は雑種が増え、随分と多彩になりました。

 オミナエシの別名は「敗醤(はいしょう)」。敗醤はオミナエシ、オトコエシの根のことで、漢方薬オミナエシの花が風にそよぐ様子はいかにも女性的で、歌にも盛んに詠まれ、『万葉集』に14首、『古今和歌集』に17首あります。