ナツツバキの花

 ヒメツバキの次はナツツバキ(夏椿)。ナツツバキはツバキ科ナツツバキ属の落葉樹。花の形が椿によく似ていて、夏に開花することから「夏椿」。別名はシャラノキ(娑羅樹)で、寺院によく植えられてきました。でも、釈迦が涅槃に入った時の「沙羅双樹(さらそうじゅ)」は全く別の木です。

 仏教には三つの聖樹があります。それぞれの樹には釈迦と関係の深いエピソードがあり、それが経典に描かれてきました。無憂樹、印度菩提樹(インドの国花)、そして沙羅双樹が聖なる三樹。涅槃図は娑羅双樹のもとで頭を北にして西を向き、右脇を下にした姿で横たわり、その釈迦の周囲で十大弟子や菩薩、天部の仏のほか、動物や鳥類、虫が嘆き悲しむ様子が描かれています。諸寺に伝わる涅槃図は狩野派をはじめとして、長谷川等伯伊藤若冲らの有名な絵師も手がけています。

 俳句ではナツツバキが「沙羅の花」として夏の季語で、「沙羅の花捨身の落花惜しみなし(石田波郷『酒中花』)」などがあります。

 「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」という『平家物語』の冒頭はあまりに有名です。釈迦の入滅の際、沙羅双樹は真っ白に変化し、八本あったうちの四本は瞬く間に枯れ、残る四本の沙羅は栄えるように咲いたと言われています(これが「四枯四栄」)。インドのサラノキは大木で、花は黄色っぽい色をしています。

 こうして、日本ではナツツバキが沙羅双樹の方便として役立ってきたのです。