豊洲と有明の間にある東雲運河には緑が生い茂る森の島が浮かんでいます。東雲運河の豊洲側には豊洲ぐるり公園、有明側には有明親水海浜公園があり、それらに囲まれているのが緑の旧防波堤。生活圏のなかにありながら、桟橋や入江もなく、立ち入り禁止。旧防波堤の工事は1926年に始まり、30年までに第6号埋立地(現在の東雲一丁目)から第3台場(現在の台場公園)までの約2300m(東雲運河上の構造物)が建造されました。現在は樹々が生い茂る細長い森のようで、運河に浮かんだ緑地になっています。
木遣り橋は東雲運河に架かり、その真下に旧防波堤があり、そこの樹々を見下すことができます。アカメガシワが多いのは知っていたのですが、それより大きなクサギの群落が花をつけているのを見つけ、なぜ気づかなかったのかと驚いてしまいました。アカメガシワもクサギもナンキンハゼ、イタドリ、タケニグサなどと並んで、代表的な先駆生物です。先駆種、パイオニア植物とも呼ばれ、植生(ある場所に生育しているすべての植物)が遷移していく初期に見られる植物種のことです。
アカメガシワ(赤芽槲、赤芽柏)は子供の頃よく見ていただけでなく、今でも湾岸地域でよく見ることができます。落葉高木で、山野に生えていて、春にでる若葉は紅色をしています。雌雄異株で、樹高は10メートルほどに達します。花期は6、7月で、枝先に穂になって小さな花を多数つけ、雄花には黄色の葯が目立ちます。雌花は雄花よりも小さく、花数も少ないようです。
私がアカメガシワの名前を知ったのは中年になってからです。先駆種のアカメガシワ、クサギはいずれも成長が早いのですが、樹形はまとまらず、森林の遷移によって消えていきます。クサギやナンキンハゼは雌雄同株ですが、アカメガシワは雌雄異株です。
*湾岸地域は埋め立てによる造成地で、かつては先駆種が目立ちました。先駆種は寿命が短く、数十年で枯れるものがほとんどです。それに対して、先駆種の陰では陰樹として遅れて育ちますが、成長して林冠を構成しても枯れることがなく、同じ種の世代交代で安定した状態の森林を維持できる種が極相種です。
葉に異臭があることから「臭木(クサギ)」となったのですが、その名前とは裏腹に、白い花と瑠璃色の実が人々を魅了してきました。画像からわかるように、クサギの葉は大きく、長い葉柄を含めて30cmにもなり、柔らかくて薄く、柔らかな毛が密生します。甘い香りがする花は夏に咲き始め、花びらは萼から長く突き出し、その先で開きます。
クサギの実は瑠璃色の液果で秋に熟し、よく目立ちます。クサギの瑠璃色の実は古くから「常山の実」と言われ、実をあつめて青色の染色材料にしてきました。湾岸地域でもまだクサギの瑠璃色の実を見ることができます。
ナンキンハゼは中国原産の落葉広葉樹で、公園などに植栽され、湾岸地域でも馴染みの樹。10月終りころに果実をつけ、果皮が弾け、白い種子が残ります。ナンキンハゼの有毒の葉は寒くなくても見事に紅葉します。また、栄養分のある種子は野鳥の食糧になります。
そのナンキンハゼは雌雄異花同株。つまり、ナンキンハゼの花には雄花と雌花があり,同じ株に両方の花が咲きます。さらに、雄花と雌花が咲く順序によって雌花先熟株と雄花先熟株の二つのタイプがあります。同じころに紅葉するイチョウは雌雄異株異花です。私たちは雌雄が別々ですが、ナンキンハゼは同じで、動物の性にはない植物の性の奥深い神秘を垣間見せてくれます。
雌性先熟株は、総状花序の下の方に数個の雌花がつき、その上にたくさんの雄花がつきます(画像)。先に雌花が咲き、雌花が咲き終わった頃に雄花が満開となります。雄性先熟株は,穂のようにたくさんついた雄花が先に咲き始めます。雄花が咲き終わり、穂から落ちると、穂の付け根の辺りに小さな穂が伸びます。小さな穂には付け根の方に数個の雌花、先の方に多数の雄花がつき、まず雌花が咲き、その後で雄花が咲きます。
*先駆種の特徴
先駆種は裸地に真っ先に侵入し、群落をつくる。過酷な栄養条件の土地でも平気で森を作ることができる。そして、土壌を豊かにし、次の遷移段階を彩る陰樹に土地を明け渡していく。彼らは森の基礎を作る先駆けの役割を担っている。極相が森林である日本では、これが自然の掟であり、旧堤防もその一例に過ぎない。こうして、アカメガシワやクサギが旧堤防で群落をつくっている理由が何となくわかってくる。彼ら先駆種は頑丈な樹木をつくるのではなく、動的に動く活動的な根を持ち、自在に動く。先駆種は極相種より動物的で、それが先駆けに適している。




