トンボ雑感

 シオカラトンボ(塩辛蜻蛉)は成熟した雄につけられた名前で、茶色い雌や若い雄はムギワラトンボと呼び分けられるのですが、成熟した雄の色が種名の由来になっています。でも、雌や若い雄の身体の特徴が成熟した雄と違うため、俗称として「ムギワラトンボ(麦藁蜻蛉)」とも呼ばれてきました。これに対し、無意識の性差別だと感じる人も、トンボに対する観察が細かいと思う人もいる筈です。一方、アキアカネの雄の体も成熟すると、雌より赤くなりますが、どちらも赤いため、「赤とんぼ」、「アキアカネ」と性的な区別なしに呼ばれていて、誰も性差別の不都合さは感じていません。

 ところで、「シオカラトンボ」の由来は白色の姿が塩辛昆布(塩昆布)に似ているからとされています。この白色の正体はワックス質の粉で、舐めても塩辛くありません。最近、この粉が紫外線を反射することがわかり、これによって真夏の日差しの下でも元気に活動できることが説明できました。近年は、紫外線対策の関心が高いですが、シオカラトンボは遥か大昔から既に紫外線対策をしていたようです。でも、それがオスだけというのは理不尽としか言いようがありませんから、何か別の理由もある筈です。

 シオカラトンボは夏のトンボで、赤とんぼは秋のトンボというのが通説。三木露風作詞、山田耕筰作曲による「赤とんぼ」は日本の代表的な童謡。また、「赤とんぼ」は秋の季語ですが、気になるのは「山の畑の桑の実を 小かごに摘んだは まぼろしか〜」の歌詞。この歌詞でいつも思うのは季節感のズレ。狭義の赤とんぼであるアキアカネの出現は秋。でも、羽化するのはちょうど桑の実の6月頃で、アキアカネは羽化した後,高い山で夏を過ごし,大挙して稲刈りの終わった里の田んぼなどに降りてきます。

 いわゆる「赤とんぼ」たちは日本に22種もいます。ナツアカネは6月ごろ羽化し、そのままそこに居続けます。ですから、アキアカネは平地で炎天下の真夏に見かけることはなく、真夏に平地にいる赤トンボはナツアカネの可能性が高いのです。

 そんなことを考えながら歩いていると、シオカラトンボが飛び始め、アカトンボもちらほら見え始めています。季節は夏からゆっくりと秋に移り始めているようです。