植物の性態の一端

 動物のように動けない植物でも子供をつくるには他の花から花粉をもらう必要がある。花は基本的には雄しべと雌しべのある両性花だが、下手をすると自分の花粉が自分の雌しべについてしまう。つまり、近親交配がおこる(植物の場合は「自家受粉」)。では、他の花から花粉をもらうにはどうすればよいのか。そのために、植物は様々な性表現を進化させてきた。雄花と雌花に分ける方法、あるいは、雌株と雄株のように個体を分ける方法がある。さらに、雄しべと雌しべがそろっていても、それらが成熟する時期をずらして自家受粉を防ぐ方法もある。これまで記してきた性態の幾つかを見てみよう。

 ナンキンハゼは雌雄異花同株、つまり、花には雄花と雌花があり,同じ株に両方が咲く。さらに、雄花と雌花が咲く順序によって、雌花先熟株と雄花先熟株がある。一方、イチョウハマヒサカキは雌雄異株異花。雌花先熟株は,総状花序の下の方に数個の雌花がつき,その上にたくさんの雄花がつく(画像)。先に雌花が咲き,雌花が咲き終わった頃に,雄花が満開となる。雄花先熟株は,穂のようにたくさんついた雄花が先に咲き始める。

 雌雄同株は親と同じ遺伝特性を受け継ぎやすいので、安定した環境では子孫を殖やしやすいメリットがあるが、子の特性が親そっくりなため、環境が不安定になると親子共倒れになるデメリットがある。雌雄異株であれば、他家受精になるので、常に多様な子孫を作ることができ、不安定な環境では有効となる。

 クロガネモチはイチョウハマヒサカキと同じように雌雄異株。赤い実をつけるクロガネモチは雌の木。クロガネモチを含むモチノキ属では、結実そのものに花粉が必ずしも必要ないようである。

 イチョウと同じように、常緑小高木のハマヒサカキにも雌と雄の区別がある。花が咲く時期は独特の悪臭を放つ。雌雄異株で、当然ながら雄株には雄花が、雌株には雌花が咲く。花は直径2〜6mmの鐘形で、下向きに開き、雌花は雄花より小さい(画像)。サイズの見極めは難しいが、確かに雌花は小さい。花弁は5個。雄花には雄しべが10〜15個あるが、雌花では退化。雌花の雌しべは1個で、雄花では退化。

 もっと不思議なのはヤツデの花の変化。小さな花が集まってできるのが花序で、ヤツデは球状の散形花序が集まって大きな円錐花序をつくっている。両性花は雌しべが成熟する前に雄しべが花粉を散らし、自家受粉を避けている。画像を見比べると、花びらも雄しべもある花(雄性期)と雌しべしかない花らしくない花(雌性期)とが区別できる。花は枝分かれ回数が少ない花序から順に咲く。上の花序から順に咲き、同じ枝分かれ回数のものはほぼ同時に咲く。上の花序の雄性期、雌性期、次の花序の雄性期、雌性期と移っていく。

 シソ科アキギリ属のアキノタムラソウで雄しべが先に成熟し、雌しべが遅れて受粉可能になる雄性先熟が知られてる。また、ナツノタムラソウとダンドタムラソウに両性花をつける両性株と雌花だけをつける雌株があることもわかっている。

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ナンキンハゼ

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ハマヒサカキの雄花

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ハマヒサカキ雌花

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ヤツデ雄性期

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ヤツデ雌性期