ヒイラギの季節に:ちょっと厄介な話

 雌しべと雄しべをつける雌雄同株の個体と、雌しべだけの雌花しかつけない個体と雄しべだけの雄花しかつけない個体が別々になった雌雄異株の個体があります。また、雌雄同株の一つの花に雌しべと雄しべをもつ両性花を咲かせる個体と、同じ株に雌しべだけの花と雄しべだけの花(単性花)をつける雌雄異花の個体があります。つまり、雌雄同株には両性花と単性花があり、雌雄異株は単性花しかないとなります

 雌雄異株の雄株も花をつけます。なぜなら、雄花の花粉を昆虫に運んでもらい、雌花の雌しべに受粉させ、種子をつくらなければならないからです。この場合、動物でも同じことですが、雄株は種子を作る負担がないので、受粉率を高めるために雌株よりもずっと多くの花を咲かせます(精子卵子の数の比率)。中国から渡来した「キンモクセイ」は雌雄異株で、花と香りを楽しむのが目的で、しかも挿し木が簡単でした。そこで、もっぱら花がたくさん咲く個体、つまり雄株が移入されたと考えられます。その結果、日本の「キンモクセイ」は雄株ばかりになったことが説明できそうです。そのキンモクセイはギンモクセイの変種にあたります。ギンモクセイも雌雄異株で、雄の木には雄花が、雌の木には雌花が咲きます。そして、雌花の後には黒紫色の果実ができます。

 ヒイラギ(柊)と聞くと、クリスマスの頃に出回る、ギザギザした葉に赤い実のついた枝を思い浮かべる人が多い筈です。この赤い実がつくヒイラギは、正しくはセイヨウヒイラギで、ヒイラギとは別種の植物です。セイヨウヒイラギはモチノキ科の常緑高木で、ヒイラギと同じように葉の縁にギザギザとした突起があり、そこからセイヨウヒイラギと名付けられたようです。セイヨウヒイラギは雌雄異株ですが、雌株だけでも結実します。本物のヒイラギも雄雌異株で、雄花には雄しべが2本あり、雌花は雌しべが長く発達しています(画像)。ヒイラギは黒紫色の1㎝程度の実をつけます。庭や公園で植栽されているヒイラギはほとんどが雄株。雄株に咲く雄花の方がたくさんの花が咲くからと考えられます。野山のヒイラギもほとんどが雄株。ですから、私が雌花、つまり雌株に遭遇したのは幸運だった訳です。

 ヒイラギモクセイはこのヒイラギと中国原産のギンモクセイとの雑種。ヒイラギモクセイはモクセイ科モクセイ属の常緑小高木。花期は10月から11月で、親譲りの良い香りのする白い花が咲きます。花弁は4枚に分かれ、ギンモクセイの性質が強く出ているようで、反り返りません。雄株しかないので、花はすべて雄花。2本のおしべと、中心部に痕跡的なめしべがのぞいています(画像)。ヒイラギモクセイは雌雄異株で、雄株だけが知られていて、受粉・結実はしないとのことです。したがって、繁殖は挿し木です。

 なんだか迷走気味の話になりましたが、顕花植物、両性植物の交雑に関する戦略が垣間見えるような話でもあり、クリスマスをしらけさせるような内容になってしまいました。

ヒイラギの雌花

ヒイラギモクセイ