ヤツデの花(2)

  ヤツデの開花時期はちょうど今頃で、球状の散形花序が集まって大きな円錐花序をつくり、その見事な幾何学的構成を見ることができます。白い花は直径5mmほどの5弁花です。

 とても不思議なのはヤツデの花の変化で、そこにヤツデの生存戦略を垣間見ることができます。ヤツデは球状の散形花序が集まって大きな円錐花序をつくっています(画像)。画像を見比べると、花びらと雄しべとがある花(雄性期)と雌しべしかない花らしくない花(雌性期)とが区別できます(最初の画像の中央の花が雌性期)。花は枝分かれ回数が少ない花序から順に咲きます。上の花序から順に咲き、同じ枝分かれ回数のものはほぼ同時に咲きます。上の花序の雄性期、雌性期、次の花序の雄性期、雌性期と移っていきます。両性花は雄しべ先熟で、雌しべが成熟する前に雄しべが花粉を散らし、自家受粉を避ける工夫が見られます(雌雄異熟)。

 ヤツデは雌雄同株ですが、雌花と雄花があるわけではなく、雄しべが伸びる雄性期の後に、雌しべが伸びる雌性期がやってきます。つまり、同じ花が時期によって性を変える仕組みになっていて、最後に咲く花は雄花のままで終わるため、一般的には両性花と雄花があると表現されます。両性花になる花は上部に多く、下部の花の多くは雄花で終わります。何とも見事な性転換です。

 花には春の花のような芳香があります。地味な花でも、他に花が少ない時に咲き、滴るように蜜ができるため、キンバエやハナアブなどの虫が多数集まります。そのためか、「ハエ媒花」とも呼ばれています。花の後の実は緑から茶色、黒へと変色しながら、翌春にかけて熟していきます。

*雌雄異株が自家受粉を避ける工夫であることは誰にもわかりやすいのですが、雌雄同株でも自家受粉を避ける工夫ができ、その方法の一つが雌雄異熟で、代表的な具体例がヤツデなのです。植物の雌雄の仕組みはなかなか複雑で、しかもとても見事です。ヤツデと同じ雄しべ先熟の例は、キキョウ、ヤブガラシゲンノショウコ、ウスベニアオイなどです。