敬老の日、あるいは高齢者3,588万人に寄せて

 まずは、日本医師会の「地域医療情報システム」を検索し、読者の住む地域のデータを見ていただきたい。そこには人口動態、医療施設、介護施設に関する統計データと経年変化が載っています。当たり前のことですが、この種の統計資料には冷静に対処しなければなりません。自分の住む市だけでなく、近隣の市や町はどうか、そして県はどうか、さらには首都圏はどうか、日本全体、世界はどうかと比較を慎重に重ね、今度は自分の住む市の各地域はどうかを見て、その上で別の観点からの統計資料や諸理論がなければ、十分な議論は始まらないでしょう。また、14日の私の「好奇心旺盛な子供の疑問、…」のような哲学的な議論も時には必要になります。肝心の人口や医療に関する政策を俎上に載せ、決定するためには今のところ私たちは信頼できる手立てをもっていないのです。
 さて、「地域医療情報システム」のデータを見ると、人口動態、医療施設、介護施設が並び、三つの事柄が最初から因果的に関連しているかのような表示になっているように見えます。人口が減少するから医療介護の施設や人員が少なくなるのか、その反対に、医療介護の施設や人員が貧弱なので、人口が減少するのか、(いずれも常識的だと思えるのですが)データ自体は何も言っていません。でも、つい私たちはそんな因果的関係があるかのように読んでしまいます。人口と医療介護の間に関係があるのか否か、あるならどんな関係なのか、様々に言われていても、実は私たちはよくわかっていないのです。
 医療は集団の人口構成にどのように関わるべきなのか。この問いだけでも、日本とアフリカの国々では答えがまるで違うことがすぐわかります。逆に、国や地域の人口構成が医療体制にどのような影響を与えるのか、じっくり考えるべき事柄です。医学や医療技術はグローバルでも、医療体制、医療目標などはとてもローカルなのです。高齢者への医療の目標は何かとなれば、同じ日本でも時代と地域によって揺れ動いてきました。
 医学部には基礎医学臨床医学という性格が随分と異なる二つの部門が伝統的に存在し、私のいた大学でもそれぞれの教員の印象(科学者と医者)は随分違っていました。しかし、その垣根も次第に低くなり、理工学部基礎医学臨床医学が一緒になって研究開発に挑むようになっています。ここに社会科学、環境科学などが加わり、医療や人口に関する総合的な政策作成に寄与するようになり始めています。