ワスレグサ、シオン、そして、ワスレナグサ

 少し前まであちこちで色々なユリの花を見たが、そのユリの花によく似ているのがワスレグサ。ワスレグサ(忘れ草、Hemerocallis fulva)はワスレグサ属の多年草の一種で、別名の「カンゾウ(萱草)」、「ヘメロカリス」の方がよく知られている。湾岸地域でもあちこちにワスレグサが咲いている。ワスレグサは広義にはワスレグサ属(別名キスゲ属、ヘメロカリス属)のことを指し、ニッコウキスゲユウスゲもワスレグサに含まれる。ワスレグサは花が一日限りで終わると考えられたため、英語でDaylily、独語でTaglilie。

カンゾウとユリを見分ける簡単な方法は、カンゾウの花がつく茎には葉がつかないが、ユリの場合は同じ茎に花と葉とがつく。

 さて、ヤブカンゾウは中国から渡来したが、他は古くから日本にある野生種で、日本はカンゾウ王国である。さらに、日光キスゲや夕スゲなどキスゲの仲間がいて、花や葉の色や形が似ていて、その種類を正確に同定することは困難で、「ワスレグサ、カンゾウ、ヘメロカリス」を使い分けながら、それ以上は踏み込まないというのが素人の私の生活の知恵である。

 既に記したように、シオン(紫苑)は『今昔物語』に「思い草」の名前で登場する。兄はワスレグサ(萱草)を墓の横に植え、墓参りをしなくなり、弟はシオンを植えて決して忘れないようにしたという物語。

 「忘れる草、忘れない草」の他に、「忘れな(いで)草」、つまり、「勿忘草(わすれなぐさ)」を思い出す人もいるのではないか。「君死にたまふこと勿れ」の「勿れ」は「~するな」という意味で、「ワスレグサ」と「ワスレナグサ」は一字違いでも、意味は反対で、それゆえ、二つは別の植物。ワスレグサはワスレグサ属の多年草の一種で、ワスレグサの花の美しさを見ると「憂いを忘れる」と言われ、『万葉集』にも詠まれている。

 「ワスレナグサ(勿忘草)」は「私を忘れないで」と言う意味で、中世ドイツの悲しい恋の伝説がその由来。若い騎士ルドルフは恋人ベルタのためにドナウ川の岸辺に咲く美しい花を取りに行くが、川に流されてしまう。摘みとった花を岸に投げ、恋人ベルタに「私を忘れないで」と言い残し、死んでしまう。

オニユリ

シオン

ワスレナグサ