シオンの花:補足、あるいは「忘草(萱草)」と「不忘草(紫苑)」

 既に記したように、シオンは『今昔物語』に「思い草」の名前で登場します。兄はワスレグサ(萱草)を墓の横に植え、墓参りをしなくなり、弟はシオン(紫苑)を植えて決して忘れないようにしたという物語で、ワスレグサは今のヘメロカリス、あるいはノカンゾウです。

 「忘れる草、忘れない草」の他に、忘れな(いで)草、つまり勿忘草(わすれなぐさ)を思い出す人がいる筈です。「君死にたまふこと勿れ」の「勿れ」は「~するな」という意味で、ワスレグサとワスレナグサは一字違いでも、別の植物です。

 ワスレグサはワスレグサ属の多年草の一種で、別名がカンゾウ。ワスレグサの花の美しさを見ると「憂いを忘れる」といわれ、『万葉集』にも5首詠まれています。忘れ草は野草としてよく目にするノカンゾウヤブカンゾウのこと。

*画像はシオン、ノカンゾウワスレナグサの順。

**「ワスレナグサ(勿忘草)」は「私を忘れないで」と言う意味で、中世ドイツの悲しい恋の伝説がその由来。若い騎士ドルフは、恋人ベルタのためにドナウ川の岸辺に咲く美しい花を取りにいき、川に流される。摘みとった花を岸に投げ、恋人ベルタに「私を忘れないで」という言葉を残して亡くなりました。

シオン

ノカンゾウ

ワスレナグサ