日本人に固有の文化としての神道

 前川文夫の「史前帰化植物についてPrehistoric-naturalized plants to Japan Proper」(植物分類,地理 13(0), 274-279, 1943,日本植物分類学会)は色んな意味で今でも面白い。前川は有史以前に日本に入ってきた植物、つまり「史前帰化植物(prehistoric-naturalized plants)」について考察している。彼はそれらを三つのグループに分類している。一つは稲作に伴って伝播してきた植物群であり、東南アジアで培されてきた水田の雑草として適応したものである。次はムギ類の畑の史前帰化植物である。最後はイネやムギ以外の、中国から有用植物として持ち込まれたもの、あるいは日本の故郷を思い出させる花たちなど。このような史前植物のリストを眺めると、人里の植物のほとんどは日本原産ではない帰化植物であることがわかる。これら史前帰化植物に加え、その後にやってきた帰化植物を加えると、四季をもつ故郷の景観がほぼできあがる。日本には本来水田や麦畑の環境がなく、人間と共に渡来した植物、そして動物が人間と共に自然の景観、日本の景色をつくり出したのである。

 史前帰化植物という概念をスライドさせれば、史前帰化生物、史前帰化人類、史前帰化言語、史前帰化文化等々、様々なものの渡来と、それらを使った人社会の成立が想定できるだろう。神道も史前帰化宗教であり、その後に帰化した仏教と習合していく。植物が日本に帰化し、そこで適応して、生育していくように、文化が日本に伝播し、そこで順応して、生活に溶け込んでいく。そのようなアナロジーを可能にしてくれる様々なデータが民俗学、考古学、そして歴史学によって供給される。神道を民俗神道と捉え、史前帰化文化の一つと考え、それを基礎に神仏習合国家神道神社神道等を理解するのが適切だというのが私の主張である。「日本に固有の文化を日本人として共有すること」は、このような観点から歴史相対的に理解されるべきで、「固有性」は歴史相対的なものに過ぎない。