ラナンキュラスの変身から(1)

 昨年まで見慣れていた大輪のラナンキュラスが今年は見つからなく、園芸家の嗜好が豹変したのか不安になっていた。そんな中、今年のニューフェースのような花が桜の咲く前からあちこちに見られるようになった。ところが、私にはその花の名前がわからず、それが棘のように突き刺さっていた。それが何なのかが皆目わからない。そのため、知識の欠如=無知がいかに不便かを肌で感じていたのである。

 ラナンキュラス・ラックス(Ranunculus Rax) というシリーズ名は、花弁が光ることから名づけられたようだが、それは私が知っていたラナンキュラスとはまるで違う花に見えた。私には月とスッポンほどの違いに見えたのだが、キンポウゲ科キンポウゲ属のラナンキュラス・ラックスは異種間交配で生まれた新しいラナンキュラスだった。花は一重から半八重で、花弁は光が当たると輝いているように見える(画像)。

 それまでの私の中のラナンキュラスの花はダリアやバラに似ていた。ラナンキュラスは幾重にも重なった、明るい花弁が魅力的な秋植え球根だった。私は丸く整った花姿に見惚れ、ダリアによく似た花姿を愛でていた。春、まん丸い小さなつぼみが緩み始めると、内側からとめどなく溢れ出るように薄い花びらを幾重にも重ねるラナンキュラス。白やピンク、黄色、赤に加え、黒やグラデーション、覆輪、斑入り、ギザギザのフリルなど、新しい花色や花形に私は魅了されていた。

 一般的なラナンキュラスは地中海からイラン・イスラエル周辺の原種の遺伝子を持つアシアティクスという種類で、日本の夏の高温多湿や冬の寒風が苦手。そのため、バラやダリアによく似て華やかなのに、これまでガーデンに普及してこなかったのは、管理の難しさが大きな理由だった。庭で栽培しやすい耐寒性を備えたラックスシリーズを作出したのは宮崎県の「綾園芸」草野修一氏。新品種の登場によって、ラナンキュラスは一躍、春のガーデンの主人公になる。それがラナンキュラス・ラックス(ピカピカ)シリーズ。ワックスをかけたように花弁が光ることから、ラナンキュラスとワックスを合わせて「ラックス」という名がつけられた。

*画像からはラナンキュラス・ラックスの花弁の光沢がわからない。それでも、二種類の花の違いは十分わかる。