シュウメイギクの美しさ

 シュウメイギク秋明菊)はキンポウゲ科多年草で、湾岸地域でも公園などでよく見かけます。日本で自生しているものは中国原産のようですが、地下茎でよく増えるので、群生している姿も見かけます。シュウメイギクは華奢な葉茎の先に白やピンクの可憐な花を幾つも咲かせます。1本の茎から数輪の花を咲かせるため、花数も多く、群生する姿は見応えがあります。その花色にはピンクや濃いピンク、白などがあります。

 シュウメイギクは菊と呼ばれていますが、実はアネモネの仲間で、菊とはまったく関係ありません。さらに、知らなければ、つい騙されてしまうのがシュウメイギクの花で、花びらのように見える部分は実は萼片で、花弁は退化してありません。花そのものにも、花の名前にも、私たちはいとも簡単に騙されてしまうのです。

 そこで、自然が嘘をつくのか、私たちが勝手に騙されるのか、それこそ正に自然の謎だと私などは考えてしまうのです。でも、私たちがシュウメイギクの花の美しさを愛でるとき、それが花弁ではなく、萼片であるとしても、何か不都合があるのでしょうか。同じように、それが菊の仲間の花でなく、アネモネの仲間の花であっても、何か支障があるのでしょうか。花弁か萼片か、菊の仲間かアネモネの仲間かは私が見ている見事な花姿には余計な知識ではないのでしょうか。こんな風に疑問や問いが噴出してきます。

 「私は画像の薄くピンク色の入った、このシュウメイギクが好きだ」という場合と、「私はハキダメギクよりシュウメイギクが好きだ」という場合を比べる時、「私はA君が好きだ」という場合と「私はB県民よりA県民が好きだ」という場合の比較によく似ていることに気づくのではないでしょうか。園芸家の多くは「このシュウメイギクが好きだ」も「シュウメイギクが好きだ」も経験し、それぞれの違いを熟知しています。そして、シュウメイギクについての知識はそれぞれがどのような意味で好きなのかを自分にも他人にも説明し、表現するのに不可欠であることもわかっています。

 画像のようなシュウメイギクの個体が好きな場合と種としてのシュウメイギクが好きな場合は違っていても、好きな理由や違いを説明しようとすれば、同じ知識や語彙を使わなければならず、それによって、「好き」な理由が重なっていることに気づくことになります。その気づきをシュウメイギク以外にも広げると、やがて私たちは「個体と種の絆」に気づくことになるのです。

*画像は白色と薄いピンク色のシュウメイギクです。