紅葉に興奮するのはなぜか:紅葉の効用

 「紅葉狩り」は秋の野山を散策しながら、赤や黄に染まった木々を見て楽しむことです。茸を採ることを「きのこ狩り」、海岸で貝を掘ることを「潮干狩り」といいますが、「紅葉狩り」も似た表現です。そして、古くからある紅葉伝説は戸隠、鬼無里別所温泉などに伝わる鬼女の物語です。

 スペインの闘牛では赤い布に向かって牛が突進しますが、牛は赤を見て興奮するかのようです。でも、牛は色盲で、赤い布に突進するのは動く布に反応しているからに過ぎません。それなら、赤い布でなく、緑や青の布でも良い筈ですが、闘牛士が赤い布をまとい、自らの闘争本能を煽り、それで牛に立ち向かうためだそうです。

 自然界で赤色がもつ意味を示しているのが木の実です。私も多くの赤い木の実について記してきました。赤い色の信号がターゲットにしているのは哺乳動物や鳥です。多くの木の実は赤が「熟している」という信号になっていて、それによって動物を集め、種子を広い範囲に散布するという戦略を生得的に持っている訳です。この色は赤に限りません。

 花の色はほぼ白、赤、黄色、紫の4色に分けられます。これら4色は大部分の木の実の色と同じです。さらに興味をそそられるのは、花芯の色がほとんど黄色ということです。これは蜜の場所へと動物を誘う道路標識のようなものです。また、その筋(線)の色は多くが黒で、黄色を背景としてもっとも目立つ色の組合せになっています。ここにも色彩心理学の原理が使われています。

 こうしてみると,木の実や花だけでなく,葉自体もその色によってある種の信号を送っている可能性があります。特に、紅黄葉にはその可能性が高いのです。画像の鮮やかな紅葉は目立ちます。ある仮説によると,紅葉はアブラムシに対する「ハンディキャップ効果」とされています。秋に葉で十分なアントシアンやカロテノイドを合成していても(紅黄葉の至近要因)、枯れない(耐性が強い)ことをアブラムシに見せつけ、寄生を躊躇させるという警告の信号を送っているのです。