モクレン科のコブシは落葉広葉樹で、北海道から九州まで広く自生しています。早春にレモンのような香りのある白い花を咲かせ、春の訪れを告げる里山の花木で、団塊世代の私には「北国の春」と結びついています。近年は街路樹や公園樹として利用されることも多く、湾岸地域にも多くのコブシが植えられています。
コブシの花びらの幅は狭く、ハクモクレンと違って、花は全開します。花弁は6枚あり、萼片は3枚で、雌雄同株。花弁は白く、外側は僅かに赤紫色を帯びます。コブシの花がたくさん咲いた年は豊作になると、豊凶の占いに用いられたようです。コブシは春にモクレンに似た白い、美しい花を咲かせますが、その花が終わると、見向きもされずに忘れ去られてしまうようで、花の後の実の方はあまり知られていません。それは袋果(たいか)と呼ばれ、実が袋の中に入っているのですが、その実が握りこぶしのように見えることから「コブシ」の名がついたようです。
初夏の袋果は緑色ですが、次第に色がつき出し、やがて赤みを帯びてきます。画像のように、今年も色づき出しました。秋にその実が熟し、集合果の袋状の皮が破れ、熟した実が顔を出します。コブシの集合果は弾けると、中から大きめの赤い種子が糸を引いて出てきます。コブシは種子を包む袋が垂れ下がり、ピンク色になり、特によく目立ちます。
コブシの集合果はどれも異様な形状で、大きさも様々、袋果が結合し、所々に瘤が隆起しています。私たちが食べる果実は色や形が整っていますが、コブシの集合果はそれとは正反対の形です。コブシの集合果はその異様な形状で私の好奇心を掻き立てるのです。
コブシの集合果の異形の形態はプロテウス症候群を彷彿させます。1980年製作の「エレファント・マン(The Elephant Man)」の舞台は19世紀のロンドン。生まれつきの醜悪な外見のため「エレファント・マン」として見世物小屋に出ていたジョン・メリックの肥大した頭蓋骨は額から突き出て、腫瘍が身体中にありました。彼に興味をもった外科医フレデリック・トリーブスは彼を引き取り、彼の様子を観察しました。そして、トリーブスはジョンが聖書を熱心に読み、芸術を愛していることに気づきます。コブシの集合果と「エレファント・マン」との間には何の関係もないのですが、集合果の異形が私の個人的な連想を引き起こしたのです。