コブシ(辛夷)の集合果の異形

 まず、コブシの集合果の異形の形態はプロテウス症候群を彷彿させます。1980年製作の「エレファント・マン(The Elephant Man)」の舞台は19世紀のロンドン。生まれつきの醜悪な外見のため「エレファント・マン」として見世物小屋に出ていたジョン・メリックの肥大した頭蓋骨は額から突き出て、腫瘍が身体中にあり、歪んだ身体で杖なしには歩けない状態でした。彼に興味をもった外科医フレデリック・トリーブスは彼を引き取り、彼の様子を観察しました。すると、トリーブスはジョンが聖書を熱心に読み、芸術を愛することに気づきます。コブシの集合果と「エレファント・マン」との間には何の関係もないのですが、集合果の異形が私の個人的な連想を引き起こしたのです。

 肝心のコブシの集合果に話を戻しましょう。コブシの集合果が動物たちを集めるための適応かどうかは意外とわかっていません。果実が動物を使った繁殖方法の一つであることはよく知られていますが、コブシの事例についての実証研究は意外に少なく、大抵は推測の域を出ていません。コブシの果実は美味しくなく、美形でもありません。中の種子も動物の関心を引くものをもっていません。それに対して、リンゴの果実は動物だけではなく、私たち人間の特段の関心を引くものです。一方、中立的な位置にいるのがボケの果実です。まだ青い果実は有毒ですが、色づくと香りがあり、リンゴ酸やクエン酸など様々な栄養素が含まれ、生で食べることは難しいですが、ボケ酒やジャムに加工することで利用されてきました。自然の中での私たちの勝手で、自己中心の態度はコブシ、リンゴ、ボケの実を通じて見事に表現されています。

 生活世界での異形の基準そのものといえば、私たちの予測不能な仕方で目まぐるしく変わってきました。生物の形態、行動等について、「正常、異常」は人間的な基準に過ぎないことを考えれば、異形も一時的、地域的な暫定基準に過ぎないことは自明です。

リンゴ

ボケ