紅い実をつけるクロガネモチ(黒鉄黐)がたくさん植えられているのが湾岸地域で、今はあちこちでその紅い実を見ることができます。クロガネモチとはモチノキ属の常緑樹で、都市の環境にも耐えることから、公園樹、あるいは街路樹として人気があります。冬に紅い実をつける庭木としては最大級のもので、花の少ない冬を彩ります。
クロガネモチはイチョウなどと同じように雌雄異株。ですから、赤い実をつけるのはクロガネモチの雌の木。雄の木を見落としているのかも知れないが、どのクロガネモチも雌の木ということになれば、雄の木がないので、そもそも紅い実をつけることができるのかというとても素朴な疑問が出てきます。そして、それは湾岸地域のクロガネモチの性比はどうなっているのか、という疑問に繋がるのです。
雌雄異株の植物では雌株の花に雄株の花粉がついて初めて実ができます。では、雌株だけ(あるいは雄株だけ)が植裁されている場合はどうなるのでしょうか。種子のDNAと母樹のDNAと周囲の同じ樹種の木のDNAを調べることで、種子の父親(花粉親)を判定できます。種子の花粉親がわかれば、花粉親と母樹との距離、つまり花粉がどのくらい遠くの木から運ばれてきたかがわかります。樫の木の一種では、数百メートルも離れた樹木からも花粉が運ばれます。クロガネモチでも、随分離れている雄株から花粉が運ばれていると考えられます。
セイヨウヒイラギの場合、雌花に袋かけをしても少数の結実が見られること、種子を全く含まないのに紅く熟す実もあること、また人工授粉に頼らずともかなりの実をつける個体があることが報告されています。クロガネモチと同じ属の植物ヤバネヒイラギモチも、受粉しなくても結実するという報告があり、アメリカヒイラギモチでは、人工授粉をしてもしなくても結実率に大きな変化が見られなかったという観察事実から、結実率を左右するのは花粉の量より果実に回すことのできる資源量の方だと推測されています。
このようなことから、クロガネモチを含むモチノキ属では、結実そのものに花粉が必ずしも必要ないことになりそうですが、それでは雄の木の役割は何かわからなくなり、雌雄の割合(性比)など無意味になり、終には雌雄異株ではないことになってしまいます。こんな素人の当て推量は大した意味はありませんが、気になるのは確かです。
こんな面倒なことは脇に置き、冬の紅い実の姿を暫く楽しむことにします。
紅い実が クロガネモチを 引き立てる
冬来る クロガネモチの 実が熟す


