クロガネモチの赤い実(2)

 種子のDNAと母樹のDNAと周囲の同じ樹種の木のDNAを調べることによって、種子の父親(花粉親)を判定できます。種子の花粉親がわかれば、花粉親と母樹との距離、つまり花粉がどのくらい遠くの木から運ばれてきたかがわかります。樫の木の一種では数百メートルも離れた樹木からも花粉が運ばれます。クロガネモチでも、随分離れている雄株から花粉が運ばれていると考えられます。また、単為結果するヒイラギモチは種子を全く含まないのに実が紅く熟すことを既に述べました。

 クロガネモチ(黒鉄黐)は冬に紅い実をつける庭木としては最大級のもので、花の少ない冬を彩ります。雌雄異株の植物では雌株の花に雄株の花粉がついて初めて果実ができます。では、クロガネモチのように雌株だけが植裁されている場合はどうなるのでしょうか。

 セイヨウヒイラギの場合、雌花に袋かけをしても少数の結実があること、種子を全く含まないのに紅く熟す実もあること、また人工授粉に頼らずともかなりの実をつける個体があることが報告されています。クロガネモチと同じ属のヤバネヒイラギモチも、受粉しなくても結実するという報告があり、アメリカヒイラギモチでは人工授粉をしてもしなくても結実率に大きな変化が見られなかったという観察事実から、結実率を左右するのは花粉の量より果実に回すことのできる資源量の方だと推測されています。

 このようなことから、クロガネモチを含むモチノキ属では、結実そのものに花粉が必ずしも必要ないことになりそうですが、それでは雄の木の役割は何かわからなくなり、雌雄の割合(性比)など無意味になり、終には雌雄異株ではないことになってしまいます。

 「雄木をほとんど見かけないにもかかわらず、雌木に赤い実が沢山つく」ことの理由は今のところは近縁種で言われていることからの推測しかできないようです。クロガネモチと同じモチノキ属の結実については、ダーウインも注目していました。セイヨウヒイラギの上記の場合だけでなく、『植木の実生と育て方』(山中寅文,1975年、誠文堂新光社刊)には「モチノキ属は雌雄異株(まれに雑居性のものもある)であるから採種用母樹に雄木がなければ完全な種子は得られないが,一般の観賞用には雌木だけで充分である」とあります。また、クロガネモチと同じ属の植物ヤバネヒイラギモチも、受粉しなくても結実するという報告があるようですし、アメリカヒイラギモチでは、人工授粉をしてもしなくても結実率に大きな変化が見られなかったという観察事実から、結実率を左右するのは花粉の量よりは、果実に回すことのできる資源量の方であろう、と考えられています。

 このようなことから、クロガネモチを含むモチノキ属では、結実そのものに花粉が必ずしも必要ないことになりそうですが、それでは雄の木の役割は何かわからなくなり、雌雄の割合(性比)など無意味になり、終には雌雄異株ではないことになってしまい、謎は謎を生んで、膨らむばかりです。

ヒイラギモチ

クロガネモチ