スパイダーフラワーとアズチグモ

 シコンノボタン(紫紺野牡丹)は紫紺の花を咲かせるブラジル原産の常緑低木。濃いビロードのような質感の葉と、10cmを越える花が美しく、多くの人に好まれています。シコンノボタンの別名は「スパイダーフラワー」。紫色の雄しべ10本のうちの5本が長く、葯(雄しべの花粉を入れる袋)の部分がクモの節のように曲がっているためです。そのスパイダーフラワーにいるのがアズチグモ。真っ白のアズチグモのメスは既に9月30日に記しています(最初の画像)が、私が今年アズチグモを見るのは3回目です。

 アズチグモ(安土蜘蛛)はクモ目カニグモ科に属するクモ。「カニグモ」という名前の通り、腹部が扁平で、カニのようなシルエットをもっています。カニグモの中でも、アズチグモはユニークな姿で、頭部に「三角マーク」があるのが特徴。また、アズチグモの面白い点は色々な体色のものが見られること。白色の姿のものから黄色や斑紋付きの姿のものまでいます。では、アズチグモのこの体色は変異なのか、それとも変化なのでしょうか。

 アズチグモのメスは花の色に合わせて白や黄色に体色を変化させることができますが、これは個体差ではなく、擬態のための生理的変化。体色は白から黄色まで変化し、花の色に合わせて擬態します。色の変化には数日かかり、環境に応じた持続的な適応です。オスにはこのような体色変化はありません。メスのこの能力はカメレオンやアマガエルの体色変化と同じ生理的適応と考えられています。

 メスには個体ごとに体色や斑紋に変異が見られます。これは生理的な色変化ではなく、遺伝的・発生的な個体差です。全身が淡い黄色〜白色で、斑紋がほとんど見られないタイプ、脚のみに斑紋があり、脚部に褐色の帯状斑紋が現れるが、体幹部は比較的均一な色のタイプ(画像)、背甲や腹背にも斑紋があるタイプがあります。

 教科書風にまとめるなら、花の色に合わせた体色変化(白⇄黄色、擬態)は生理的な変化であり、個体変異とは違います。一方、斑紋の有無や配置は遺伝的・発生的な個体差であり、同じ環境下でも異なる模様を持つ個体が共存します。

*アズチグモも他のクモと同じように、オスはメスとは大きさも姿も全然異なり、そのサイズはメスの半分以下の2~3mm程度しかない。