アオギリの花

 私は桐の木を随分と見ていない。桐の木の春に咲く花は薄紫色で、強烈な匂いを放っていたのをよく憶えている。その匂いが妙に懐かしい。今でも故郷には昔と同じように桐の木があるのだろうか。そして、子供の頃は桐の下駄が妙に好きだった。とても軽く、木の肌も足裏に気持ちよかった。桐は高級な下駄や箪笥、長持の材料となってきた。国産材の中で最も軽量で、柔軟で扱いやすく、真っすぐで狂いがなく、乳白色の木目が美しい。木目の美しさを表す「木理」から「キリ」に転じたという説がある。桐の木は切るのも割るのもとても楽で、堅い欅とはまるで違っていた。キリの開花は新葉の展開に先立つ5月~6月。淡い紫色の花がブドウの房のように集まって咲く。紫が高貴な色とされたことから、かつては貴族の庭に植栽された。

 さて、肝心のアオギリは沖縄、台湾、中国南部、ベトナム等の亜熱帯を原産とするアオイ科の落葉樹。奈良時代に日本へ渡来し、暖地で野生化した。私が湾岸地域で見ることができるのはこのアオギリで、公園樹として使われている。葉がキリに似て、若い木の樹皮が緑色(昔風には青色)になるためアオギリと呼ばれる。残念ながら、キリの仲間ではない。それでも、「青桐」、「梧桐」と書かれる。アオギリの開花は5~7月で、枝先に淡い黄色の小花を多数咲かせる。花には花弁がなく、花弁のような萼片が5つあり、雌雄同株。

 アオギリの花はキリの花とはまるで違う。だから、私の桐の記憶が生み出す欲求はアオギリによって満たされることはない。