ナワシロイチゴの咲かない花?

 カジイチゴの実について既に記したが、ナワシロイチゴの花が足元で咲いている。二つのイチゴの季節のズレを感じながら、子供の頃の草むらのヘビイチゴが蘇ってくる。

 バラ科イチゴ属のナワシロイチゴは日本中に分布し、今頃花が咲き、その後1か月ほど後に甘酸っぱい実をつける。花は赤紫だが、花弁が開かないため、カジイチゴと違って目立たない。苗代の頃に赤い実が熟すのがナワシロイチゴの名前の由来と言われている。

 花は初夏に咲き、径1cm前後の紅紫色の5弁花だが、反り返ったガク片の中心に円錐形になっていて、花弁は開かない。「開花しない花」は形容矛盾、自己矛盾のような存在である。

 一般的に花は受粉媒介者である昆虫類(訪花昆虫)を誘引するために進化してきたもので、花びらのディスプレーは極めて重要。ところが、花弁が閉じたままのナワシロイチゴはもっぱら花弁の裏側で、昆虫を誘引する。何が原因かはよくわからないが、花が開かなくても受粉効率に影響はなさそうである。

 このように見てくると、「花が咲く」と「花弁が開く」は同じ意味なのだろうか。「花が咲く」を視覚的に花弁が開くことと解釈するか、機能的に昆虫を誘引することと解釈するかで答えは変わってくる。私たちは「花が咲く」という単純な文を一体どのように捉え、解釈しているのだろうか。ナワシロイチゴの他にも私の知らない「花が咲く」の様々な意味があるのだろう。