上を向く花、下を向く花、横を向く花

 「なぜ花が咲くのか」に答えることができればが、その答えを実現するために「花はどこで、いつ、どのように咲くか」が追及されることになります。花が咲く理由と花を咲かせる具体的な方法とが結びつき、私たちは花について知ることができるようになります。

 花が咲く理由を問われれば、多くの人は「受粉させるため」と答えます。植物は受粉のために虫や風を巧みに利用せねばならず、そのために魅力的な香りや花色に工夫を凝らして適応してきました。

 シクラメンは地中海の雨季と乾季のある地域出身の植物で、シクラメンが咲くのは雨季の時期。シクラメンが上に向いて花を咲かすなら、雨がめしべやおしべに当たって花粉が流れ落ち、受粉ができにくくなります。それを避ける工夫が下向きに咲く花という訳です。シクラメンは花びらが後ろ側に広がって、反り返っています。そのため、下向きに咲いていても、上向きに花弁が上がり、横や上部から見ても美しい花を楽しむことができます。そのため、シクラメンの花を上から見ると、雌しべや雄しべが見えません。

 スズランは比較的寒い地方や標高の高い草地で育ちます。寒い所の花の全てがそうではないのですが、ベル状に咲くのは、寒さからおしべやめしべを守るためです。これはスノーフレークスノードロップについても成り立ちます。

 では、クリスマスローズの場合はどうでしょうか。クリスマスローズは下向きで咲く花を好むハナバチ類に適応していると考えられます。ハナバチ類は行動範囲が広く、効率よく多くの花を訪れ、受粉の可能性を高めてくれます。そのため、花首を長くし、下を向くように進化したと思われます。でも、人の望みは花をよく見たいことですから、品種改良で花首が短く、上向きの花が出ていますが、上を向かせ過ぎると、雨が当たり、しべが傷みやすくなります。

 「下向き、上向き、横向きの花」という表現はとても人間的な尺度で、多くの昆虫には花の向きは私たちとはまるで異なっています。とはいえ、多くの花は風や昆虫にだけではなく、人間にも好かれなければ生き残れません。ですから、この人間的尺度は園芸品種にとっては最重要の形質(?)なのです。

*最後の画像はスズランノキの花

シクラメン

スノードロップ

スノーフレーク

クリスマスローズ

(スズランノキ)