花が下向きで咲く理由

 ウメの花は上向きなのに、サクラの花が下向きなのはなぜなのか。ヒマな老人の少年のような疑問への答えを探ってみましょう。

 ウメの花は枝にしっかり付いた仕方で咲きますが、サクラの花は長い柄(花柄)の先に咲きます。この柄が花を支えるのに充分な強度をもっていないと、花はその重さで下を向かざるを得ません。何とも単純な理由ですが、サクラ以外の下向きの花もこんな物理的な理由で下向きなのでしょうか。

 スノーフレークの和名は「鈴蘭水仙すずらんずいせん)」。スノーフレークヒガンバナ科の球根植物。花がスズランに、葉がスイセンに似ていることから、鈴蘭水仙。全草にリコリンやガランタミンといったアルカロイドをもつ有毒植物。葉がニラに似ていることから、誤って食べると、吐き気、嘔吐、頭痛、下痢といった中毒症状を引き起こします。スノードロップの花は白で、3枚ずつの離れた長い外花被と短い内花被を持つ六弁花。スノーフレークは花びらの先が6枚に別れ、緑の斑点が入ります。スノードロップスノーフレークも花は下向きで、そのままでは内部が全く見えません。

 「植物が花を咲かせるのはなぜですか」という問いに対し、多くの人は「受粉させるため」と答えます。虫や風を利用して受粉させるために日々、植物たちは魅力的な香りや花色を生み出してきました。となると、下を向いて咲く理由は何でしょうか。クリスマスローズもまた、下を向いて咲きます。これは、植物学的には、下向きで咲く花を好むハナバチ類を誘っていると考えられています。ハナバチ類は行動範囲が広く、一つの花での採蜜時間が短く、効率よく多くの花を訪れて受粉の可能性を増す昆虫です。このハナバチ類に好まれるように、花首を長くし、下を向くように進化したと思われています。

 ピンクと白の色合いで春の訪れを感じさせるアセビですが、その花は下を向き、壺のような形をしています。わざわざ入口を狭くしてしまうこの形に一体どんな利点があるのでしょうか?虫が入り、横に飛び出ている糸に触れることで、糸にくっついている雄しべが振動し、花粉が落ちます。下向きの花ですから、虫が入ってきて、上に上がってくる時に花粉をばらまいてくっつけるわけです。蜜は一番奥にあり、花の中を登らざるを得ない訳です。

 こんなところが私の周りにある花たちの巧妙な作戦のほんの一部ですが、まだ他にも様々な策略、作戦が展開されている筈です。上下だけでなく横(左右)を向く花もたくさんあります。サクラの花も花柄の強度を弱くしたままであるのは何か理由がある筈です。何しろ花には植物の生存戦略のエッセンスが凝縮されているのですから、決して一筋縄ではいきません。

ウメ

カワズザクラ

スノーフレーク

スノードロップ

アセビ