ナワシロイチゴの赤い実

 バラ科ナワシロイチゴ(苗代苺)には棘がある。ナワシロイチゴキイチゴの仲間で、初夏に薄紅~紅紫色の五弁花を咲かせ、その後に鮮赤色の宝石のような集合果をつける。球状の果実は甘く、酸味もある(画像)。「ナワシロイチゴ」は苗代の時期に果実が熟し出すことから名付けられた。別名はサツキイチゴ(皐月苺)、Japanese raspberry。

ナワシロイチゴの花は開花しても花弁が閉じたままで、花の先はおちょぼ口になっていて、そこから雌しべの柱頭だけが顔を出している(画像)。萼片が開いても、花弁は閉じたままで、その真ん中から雌しべが顔を出す。雌しべはさらにせり出し、花弁とのすき間から雄しべが出てくる。萼片は全開しても、花弁は閉じたまま。この時点で雄しべから花粉が出ている。雌しべ、雄しべは時間差で熟し(雌雄異熟)、自家受粉を避けている。そして、雌しべも雄しべも役割を終え、萎む。だが、「開花しない花」は自己矛盾のような存在。花は受粉を媒介する昆虫類を誘引するために進化してきたもので、花びらのディスプレーは極めて重要。ところが、花弁が閉じたままのナワシロイチゴはもっぱら花弁の裏側で、昆虫を誘引する。花が開かなくても受粉効率に影響はなさそうなのである。では、「花が咲く」と「花弁が開く」は同じ意味なのか。「花が咲く」を視覚的に花弁が開くことと解釈するか、機能的に昆虫を誘引することと解釈するかで答えは変わる。

**ナワシロイチゴよりよく見るのがヘビイチゴ(蛇苺)。その別名は毒イチゴだが、毒はない。日本全土に分布し、実が熟すのは6~8月。実は生食可能だが、甘みはない。

ナワシロイチゴの花

ヘビイチゴの実