ツユクサ、ヤグルマギク、そしてソライロアサガオ(セイヨウアサガオ、ヘブンリーブルー)のそれぞれの青色を昨日紹介した。よく似た青色でも、違った仕組みでつくられている。私たちの感覚のもつ意味を改めて考えさせてくれる例である。
ソライロアサガオ(ヘブンリーブルー)の花弁に含まれるアントシアニンはヘブンリーブルーアントシアニンと呼ばれている。ソライロアサガオはつぼみの時には赤紫色、花が開くにつれ青色になる。このときの花弁細胞の液胞内のpHはつぼみの時が約6.6(弱酸性)で、花が開くにつれてpHが上昇し、開花した状態では7.7(アルカリ性)になる。色素組成に変化はないので、液胞の中のpHの変化により色の変化がもたらされていると考えられている。
花の色のほとんどは植物色素のアントシアニンによってつくられる。アントシアニンは酸性では赤色、中性で紫色、アルカリ性では青色に変化する。そこから、花の色は細胞のpHの違いで変わる、という説が考えられる。赤い花の細胞は酸性、青い花の細胞はアルカリ性ということになる。だが、青い花弁の搾り汁のpHを調べると、いずれも弱酸性から中性で、花の青色はアントシアニンが金属錯体を作っているからという説が出てくる。そして、ソライロアサガオは細胞のpHの変化によって、ツユクサは金属錯体の形成によって青色になることがわかった。ツユクサの花弁の青色はメタロアントシアニンであるコンメリニンによって、ヤグルマギクの花弁の青色はプロトシアニンによってつくられている。ヤグルマギクは生体内に普遍的に存在する鉄イオンを巧く利用して色を発現させている。
色を楽しみ、味わう側には発色の仕組みはなくても構わない知識、色をつくり、それを使って表現しようとする側には発色の仕組みは不可欠な知識、こんなことがとりあえずの要約か。
*近藤忠雄、上田実、吉田久美、総合論文「新たに解明された花色素アントシアニンの青色発色機構」、『有機合成化学協会誌』、第54巻第1号、1996、56-67