Selection:Natural selection or Artificial selection

 一体何が、誰が選択するのか?自然選択は自然が、人為選択は人が選択することになっているが、人が自然のものである以上、いずれの選択も自然による選択ではないのか。それでも、人工的な交配と自然な交配は区別され、園芸種は自然種(Natural kind)ではなく、人工物(Artifact)と考えられている。

 自然と人工の区別は曖昧であるだけでなく、その区別は便宜的なもので、本来的にはいずれも自然の中で起こる選択。人による選択、昆虫による選択、気候や自然事象による選択は、いずれも選択という点では同じである。自然選択と人為選択が絡み合った例を以下に考えてみよう。今咲き誇るオオイヌノフグリの周辺にある生物種の例である。

 湾岸地域ではポピュラーなオオイヌノフグリに対し、コゴメイヌノフグリ(小米犬陰嚢)やイヌノフグリは少ないが、いずれもオオバコ科クワガタソウ属の植物。イヌノフグリはかつて路傍や畑の畦道などで見られたが、オオイヌノフグリにその生育地を奪われ、今では絶滅危惧II類に指定されている。コゴメイヌノフグリは元来地中海沿岸からユーラシア大陸が原産地。1960年頃から小石川植物園で栽培され、それが逸出し、70年頃には東京都内で野生化したと言われている。コゴメイヌノフグリは白い小さな4弁花で茎葉は段々状になっている。オオイヌノフグリより花は小さく、老眼の私には見えにくいが、道端にしゃがみこめば、なんとか見ることができる。

 ベロニカ(Veronica peduncularisの改良品種)はオックスフォードブルー(あるいはジョージアブルー)と呼ばれ、花芯が白い、青色の美しい花を咲かせる園芸品種。ベロニカはヨーロッパ原産の青い小花が咲く這性の宿根草で、多くの種類があり、その中でもオックスフォードブルーは人気の品種。ベロニカは春から初夏にかけ、青紫色の小花をカーペット状につける。花が野草のオオイヌノフグリに似ていて、それより花が大きく、色も濃いのが特徴。「オックスフォードブルー」という名前は、オックスフォード大学のスクールカラーに花色が似ているため。

 淡い紫のベロニカ「マダムマルシア(メルシエ)」(Veronica petraea 'Madame Mercier')はゴマノハグサ科クワガタソウ属。このベロニカはコーカサス地方原産。前のオックスフォードブルーに比べると、マダムマルシアの花の方が小さく、色も紫が入っていることがわかる。オックスフォードブルーに劣らず、もう一つのベロニカ、マダムマルシアも、その花はオオイヌノフグリによく似ている。その花の色は青というより、青紫。三つの画像を見比べると、実によく似ている。

 オオカワヂシャ(大川萵苣)もクワガタソウ属の植物。ヨーロッパからアジア北部原産で、特定外来生物として定着している。日本在来のカワヂシャが環境庁のレッドデ-タリストに準絶滅危惧種として載っているのに対し、オオカワヂシャはあちこちで繁茂している。その上、オオカワヂシャはカワヂシャと交配してホナガカワヂシャという新種まで作り出した。カワヂシャの名の由来は若葉がチシャのように食べられることから「川に生えるチシャ」と呼ばれたことにある。レタスはヨ-ロッパが原産で、現在の結球したレタスではなく、葉や茎を食べる野菜で、中国を経由してチシャの名で日本に伝わった。一方、品種改良され、結球したレタス(玉ヂシャ)が江戸末期アメリカ経由で入ってきて、今ではこれをレタスと呼んでいる。

 オオイヌノフグリの近縁の植物で、湾岸地域にみられるものを幾つか紹介した。自然選択に加え、人による選択が複雑に入り込み、複雑な選択過程の介在がわかる。

オオイヌノフグリ

コゴメイヌノフグリ

オックスフォードブルー

マダムマルシア

オオカワヂシャ