A君の独断的で、断片的な見解(2)

 浄土真宗の教義を少しでも理解したいA君は日本の仏教の歴史を次のようにまとめました。(1)日本仏教は大乗仏教で、信者数や規模は鎌倉仏教(浄土宗・浄土真宗日蓮宗禅宗)が大勢を占める。(2)鎌倉仏教は『法華経』を根本経典とし、天台宗を母体として誕生する。(3)『三経義疏(さんぎょうぎしょ)』で『法華経』を重んじた聖徳太子、『法華経』を根本経典とする天台宗最澄を経て、鎌倉仏教から現在までの日本仏教の歴史がある。

 日本の大乗仏教では、一切の衆生(しゅじょう、すべての生き物)の救済を目標にし、人間だけでなく、動物、植物、更には山川といった無機の自然までも仏性をもつと考えられています。これは仏教伝来の前からある自然信仰(アニミズム)が仏教に反映したものです。天台宗真言宗のいずれも神や死者(霊魂)のいる「山」を本拠とする「山岳仏教」となったことがその後の仏教に大きな影響を与えました。

 次にA君は『教行信証』の基本語彙がどのように英訳されているかを代表的な訳を使ってまとめてみました。これはA君自身の基本用語の理解に相当役立ちました。その中の幾つかをピックアップしてみました。

訳語     大拙訳    本願寺訳    龍谷

往生    birth, rebirth              birth                    birth

往生する  attain rebirth           attain birth            gain birth

               be born                  be born                  be born

浄土    Pure Land             Buddha Land            Pure Land

善知識   good friend              True Teacher          good master

本願         Original Prayer           Prime Vow               Original Vow

他力         other-power             Other Power              Other Power

方便      expediencies; skillful means  Provisional means     expedient

名号         Buddha Name            Name                     Name

念仏          nembutsu               nembutsu                 nembutsu

称名     pronounce Name        Saying the nembutsu      the utterance of the Name

信心    faith, believing mind        shinjin                    faith

 

 A君は自分の世代では「往生」、「浄土」、「本願」、「他力」、「方便」、「念仏」、「信心」などの基本用語について、まるで理解されていないことだけでなく、周りの大人たちも正確な理解からは程遠いことを知り、自分の周りのほとんどの人が浄土真宗の主張を正しく理解していないと強く感じました。上記の語彙はどれも日常生活でも使われているにもかかわらず、本来の用語としては不正確であり、それは専門家であるべき僧や学者の間でも共通理解ができていないことにA君は少々驚いています。

 そこで、A君は鈴木大拙などの『教行信証』の代表的な英訳三つを見比べ、基本用語がどのように英訳されてきたのか、調べてみました。幾つかの基本概念についての訳語は本来の日本語の用語の意味が定まっていないことを見事に示していました。つまり、浄土真宗の教義に登場する基本用語が曖昧であり、そのため訳語が分かれているとA君は考えました。A君は自分の考察が不十分であることを十分わかっています。そこで、「門徒ものしらず」であることを熟知していた祖父母が一心不乱に念仏を唱えている姿が他力本願の浄土真宗の何を意味しているのか、じっくり考えてみようと思っています。