門徒のための仏教の経典とは?

 神道には教義がありませんが、仏教の教義は経典に述べられています。経典は内容の違いから三つに分類され、三蔵と呼ばれています。三蔵とは、(1)経:釈迦の教えをまとめたもの、(2)律:仏教徒の行動規範(戒律)、(3)論:経や律を研究し、注釈したもの、です。また、経典は教義の違いから、小乗経典(釈迦が直接弟子に説いた教えをまとめたもので、原始仏教の経典(『阿含経』))、大乗経典(大衆に釈迦の教えを広めるための経典(『般若心経』、『法華経』、『華厳経』など))の二つに分けられます。

  小乗経典の『阿含経』は数千におよぶ経典の総称で、『長阿含経』、『中阿含経』、『雑阿含経』、などがあります。『長阿含経』には、須弥山からなる原始仏教の世界観が描かれています。

  大乗経典の『般若心経』(天台宗真言宗、浄土宗、禅宗)の正式名は『魔訶般若波羅蜜多心経』、または『般若波羅蜜多心経』です。「般若」とは智慧を、「波羅蜜多」とは「智慧で彼岸へ渡る(さとりをひらく)」ことを意味し、「すべての人々を彼岸へ渡らせる」と主張する大乗仏教の基本的な考えを初めて宣言した経典です。609年(推古天皇)にもたらされたサンスクリット語の『般若心経』が日本最古のもので、法隆寺に残っています。

 「色即是空、空即是色」の一節は「空」の境地を説いたものです。それまで小乗仏教が説いてきた煩悩克服の教えに対して、煩悩を克服しようと執着する心を捨て、こだわりのない心を持てば、おのずと「空」の境地が開け、それが一切の苦しみから解き放たれる道であると教えています。小乗仏教の教えの対極にある大乗仏教の根本経典です。

 「般若」は古代インド語の「パーニャ」で、智慧という意味です。「心経」は、エッセンスですから、智慧の神髄がこの経典の内容です。「空」とはヘラクレイトスの「万物流転」と同じで、世界の本質は「万物流転=空」です。それが『般若心経』の中で「色即是空」と表現されています。すべては例外なく変化して、いずれ滅びて無になるということを示しています。釈迦が「色即是空」に込めた智慧は、「この世のすべては束の間の存在に過ぎず、それへの執着はやめよう」という教えでした。

 『般若心経』の「色即是空」の後には、「空即是色」が続きます。万物は変化するだけでなく、変化の結果として再生します。生きものはいずれ姿を消します。これは「色即是空」。でも、また新たな命が誕生し、地上に溢れます。これが「空即是色」。万物は再生しますが、生まれてくるのはいいことばかりではなく、地震津波など不幸も再生します。釈迦は、これから起こることを心配しても仕方なく、自分にできる限りの努力をすれば、その後はもう天に任せて思い悩むべきでないと説くのです。色即是空が「過去を受け入れる」なら、空即是色は「未来を受け入れる」ことです。この二つの境地に達することが「悟り」です。

  『法華経』(天台宗日蓮宗)は代表的な大乗経典で、正式名は『妙法蓮華経』、日本で最初にこれを講じたのが聖徳太子。全八巻二十八品からなり、大きく分けて「迹門」と「本門」の二つに分けられ、さらに序文・正宗分・流通分の三部に分けて解釈されることから二門六段といいます。「迹門」は釈迦が久遠(永遠不滅)の仏であるという実体を明らかにする以前の教えで、「本門」は釈迦が久遠の仏であることを教え、この教えを信じ、実践する者に至福への道が明らかにされています。

  『無量寿経』(浄土三部経、浄土宗、浄土真宗時宗)は序・本論・結語の三部四章からなり、経が長いことから「大経」とも呼ばれます。法蔵菩薩が一切衆生を救済するため仏陀となることを志し、その本願(誓い)として四十八願をたてます。長い修行によって、すべての誓願を成就させた法蔵菩薩阿弥陀如来となり、荘厳なる西方極楽浄土が出現します。そして、極楽往生を願う人々に称名念仏を説いています。

  『観無量寿経』(浄土三部経、浄土宗、浄土真宗時宗天台宗)は略して「観経」とも呼ばれます。ドラマチックな王位継承をめぐる骨肉の争いをベースにして、極楽往生するための具体的、実践的な方法論を詳しく説いています。

  『阿弥陀経』(浄土三部経、浄土宗、浄土真宗時宗)は浄土三部教のなかで最も短いため、「小無量寿経」「小経」とも呼ばれます。現在、浄土系各宗派の法事などでよく読誦される経典です。簡潔に、極楽浄土の荘厳な様子や、極楽浄土へ往生する方法を説いています。

 浄土真宗で大事な経典は『大無量寿経』、『観無量寿経』、『阿弥陀経』の三つで、これを浄土三部経と言います。浄土真宗ではこの三つの経典を大切にし、『般若心経』や『観音経』などを読んだり、書写したりすることはありません。浄土三部経には、阿弥陀仏のことが集中的に説かれています。