素人のお経理解

 お経(仏教経典)はその内容から三蔵に分けられ、(1)経(釈迦の教え)、(2)律(仏教徒の行動規範(戒律))、(3)論(経や律を研究・注釈したもの)の三つ。さらに、お経は教えの違いから、小乗経典(釈迦が直接弟子に説いた教えをまとめたお経)と大乗経典(多くの人に釈迦の教えを広めるためのお経)があります。

 多くの人が知っているのが般若心経(天台宗真言宗、浄土宗、禅宗)。「般若」は智慧を、「波羅蜜多」は「智慧で彼岸へ渡る(悟りをひらく)」ことを意味し、「すべての人々を彼岸へ渡らせる」と説く大乗仏教の基本的な経典です。日本でポピュラーな「般若心経」は玄奘が訳した全600巻から成る「大般若経」の中から、そのエッセンスを簡潔にまとめたものです。

 有名な「色即是空、空即是色」の一節は「空」の境地を説いたもの。それまで小乗仏教が説いてきた煩悩克服の教えに対して、「こだわる必要なし」と説きます。煩悩を克服しようとせず、こだわりのない心を持つなら、おのずと「空」の境地が開けてくる、それこそが一切の苦しみから解放される道であると主張するのです。これは小乗仏教の教えの対極の教えで、万人に対して説かれた革新的な経典です。「空」は変化のことで、絶えず変化することが「空」。「空」とはヘラクレイトスの「万物流転」と同じです。世界、宇宙は「万物流転=空」を本質としていて、それが『般若心経』の中で、まず「色即是空」と表現されます。その後に「空即是色」が続きます。生きものはどんどんと亡くなっていき、これが「色即是空」。でも、新たな命が次々と誕生し、これが「空即是色」。

  『法華経』(天台宗日蓮宗)も代表的な大乗経典で、正式名は『妙法蓮華経』、日本で最初にこれを講じたのが聖徳太子。「方便品(ほうべんぽん)」ではあらゆる事物の成り立ちについて、縁起の法則を詳しく述べながらも、これさえも究極の真理ではなく、人々を救いに導く方便(手段)に過ぎないと説きます。「自我偈(じがげ)」は釈迦の「久遠の成仏」を説いたものとして、『法華経』の真髄。

  浄土真宗で重要なのが浄土三部経。最初は『大無量寿経』。序・本論・結語の三部四章からなり、経が長いことから「大経」とも呼ばれます。宝蔵菩薩が一切衆生を救済するため仏陀となることを目指し、四十八願をたてます。長い修行をへて、すべての誓願を成就させた法蔵菩薩阿弥陀如来となり、荘厳なる西方極楽浄土が出現します。次は『観無量寿経』。ドラマチックな王位継承をめぐる骨肉の争いをベースにして、往生するための具体的、実践的な方法論を詳しく説いています。最後が『阿弥陀経』。浄土三部教のなかでもっとも短いため、「小無量寿経」、「小経」とも呼ばれます。現在、浄土系各宗派の法事などでよく読誦される経典です。極楽浄土の荘厳な様子や、極楽浄土へ往生する方法が簡潔に説かれています。