イヌビワの花嚢

 小さな花が多数入った花嚢(かのう)をつけ、雌雄異株で、雌株の花嚢が果嚢(かのう)になる、これがいわゆるイチジクの果実です。「無花果」の漢字は、花が咲かずに実をつけることに由来する、中国で名付けられた漢語で、日本語ではこれに「イチジク」という熟字訓(熟字、熟語に対する訓読みのこと)を与えています。

 イチジクには「雄花」と「雌花」があり、どちらも花嚢の内側には、「小果」と呼ばれる無数の花が咲きます。雌花の小果は、やがて膨らんで熟します。これが、私たちの食べるイチジクの実です。亜熱帯地方で栽培されるイチジクは、雄花のおしべの花粉を受粉することで熟すものが主流ですが、日本で栽培されているイチジクは雌花しかつかない雌の木のみで、受粉しなくても熟すタイプです。受粉しないので、実が熟れても種はできません。増やす場合は挿し木で、日本のイチジククローンということになります。

 イヌビワ(犬枇杷)はクワ科イチジク属の落葉小高木。別名はイタビ、姫枇杷。イチジクと同じように、雌雄異株で、花は果実状で、外からは見えない集合花(隠頭花序)です。実は秋に熟すると濃い紫色になります。食感はイチジクに似ていて、食用部分は雌花の花托部分です。

 イヌビワは枝の葉柄の付け根にイチジク形の花嚢をたくさんつけます。袋状に包み込まれ、外から見えない花から花へ花粉をやりとりするのはイヌビワコバチと呼ばれる昆虫。つまり、雄株につく雄花嚢の内側には、入り口に近いところに雄花があり、奥の方の花の大部分は虫えい花です。まず、イヌビワコバチは雄花嚢の中に入り、奥の方の花の柱頭に産卵します。幼虫が孵化するとその刺激で花の子房が肥大して虫えい花となり、幼虫はこの花を食べて生長します。やがて、コバチが成虫になって花嚢から飛び出す頃、入り口の雄花も成熟し、ハチの体に花粉をつけて雌花嚢へ運んでもらいます。これが無花果イヌビワの適応のカラクリです。

*画像はイヌビワの雄株の雄花嚢