ニシキギとキバラヘリカメムシ

 紅葉し始めたニシキギに近づき、目を凝らすと、キバラヘリカメムシカメムシ目ヘリカメムシ科)が群がっていたのが昨年の10月中旬でした。そして、キバラヘリカメムシは4月から11月にかけて、あちこちに見られ、成虫で越冬し、ニシキギやマユミの仲間に群生するというのが昨年わかったことでした。

 昆虫には、チョウのように卵、幼虫、サナギ、成虫というように、幼虫時代と成虫時代では形態も行動もまるで変わる完全変態するものがあります。例えば、イモムシとチョウはまったく形態が違い、完全変態しますが、カメムシの仲間は不完全変態で成長します。劇的に変化するサナギ時代がなく、卵から孵化して1齢幼虫になり、5回脱皮を繰り返し、最後に羽化して成虫になるのがカメムシたちです。1齢から5齢までの幼虫は似ています(画像は5齢の幼虫)。各齢で大きさ、色具合、模様などなどがどんどん変化しながらも、成虫の形態が翅と外部生殖器を除いて幼虫形態とほぼ同じで、しかも、幼虫と成虫の間に蛹を経ません。

 自然の中の変化は千差万別ですが、脱皮と変態という成長変化は連続的な変化ではありません。スムーズに変わっていく変化ではなく、不連続の変化の具体例とも言えます。私たちの成長変化にもよく見ると脱皮や変態が見つかる筈です。

 さて、「匂い」ではなく、「臭い」と書かれるのがカメムシクサギの臭い。カメムシの種類によっても異なりますが、悪臭の本体は不飽和のアルデヒド類で、最も臭気の強い種の一つがクサギカメムシ(臭木椿象)で、クサギ(臭木)につくカメムシが名前の由来です。密閉した容器にカメムシとアリを入れ、分泌物を放出させるとアリは死に、ときにはカメムシ自身まで死にます。でも、キバラヘリカメムシはマユミやニシキギを食性としていて、このカメムシの匂いは臭くなく、青りんごや若草のような清々しい匂いなのです。

 カメムシクサギもその臭いで嫌われ、それが常識になってしまっていますが、その常識は偏見に近い一面的なもので、より多面的、科学的に眺めれば、臭いだけでなく、キバラヘリカメムシの青りんごのような清々しい匂いもあり、クサギも見事な色の草木染の材料になる山菜でもあります。「クサギカメムシ」はむしろ特例に過ぎないと考えてもいいのでしょう。

 ニシキギの見事な紅葉と赤い実に集まるキバラヘリカメムシが今年も見られて安堵したとはいえ、その数は随分と少なく、気になるところです。

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成虫

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5齢幼虫

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