センダンの花

 「栴檀は双葉より芳し(せんだんはふたばよりかんばし)」は「大成する人は小さいときから優れている」という諺。「栴檀」は中国では「白檀(ビャクダン)」のことで、まだ芽が出たばかりの双葉の頃から、とても良い香りを放つ木として有名です。

 東京メトロ有楽町線豊洲駅から豊洲新市場に向けて歩いていくと、歩道の両側にセンダンが植えられています。今花をつけているセンダン(栴檀)はセンダン科センダン属の落葉高木。別名はオウチ(楝)、アミノキなどで、残念ながらビャクダンではありません。センダンの樹高は15mにもなり、成長が早く、既に見上げるほどの高さになっています。秋に楕円形の実が枝一面につき、落葉後も木に残る姿が数珠のようであることから「センダマ」(千珠)の意味で命名されました。

 植物のセンダンはビャクダン(白檀)とは違って、双葉より芳しくはありません。センダンは熱帯域に広く原生します。花は変わっていて、5枚の花弁を持ち、10本の雄蕊が合着して紫色の筒になっています。筒の先に葯(やく)があり、白い花粉が見えます(画像)。また、センダンの昔の呼び名は楝で、それが色の名前にもなっています。淡く、やや青みがかった紫色で、藤色よりは濃く、深みを加えたような、青みの爽やかな色です。

 センダンはビャクダンのように芳しくなくても、センダンの花の香りは、とても甘く、高貴な香りで、歩道を歩いているとセンダンの香りに包まれます。センダンの花の香りは、バニラやチョコレートの香りに似ています。木としてはビャクダンのような香りはありませんが、花は香しいのです。

*『観仏三昧海経』の文章から「栴檀は双葉より芳し」という成句が誕生したようですが、日本での初出例は『保元物語』で、「栴檀と云う樹は二葉より芳しかんなるは」とあり、『平家物語』にも「栴檀は二葉より芳しとこそ見えたれ」という一節があります。これらの成句の中での「栴檀」は白檀を指しています。中国の「栴檀」は日本では白檀です。日本の「栴檀」は「オウチ」で、白檀とは全く別の木です。また、白檀の原産はインド。『観仏三昧海経』もインドの経典ですから、この経典に登場する「栴檀=白檀」もインドの木です。

**センダンの別名はセンダノキ(楝木)、クモミグサ(雲見草)、トウヘンボク(唐変木)、古名ではアウチやオウチ(楝、樗)などですが、和名「センダン」の語源は不明です。センダンの中国名は楝樹、英名はbead tree(ビーズの木)です。