キンモクセイの黄色い花と謎の匂い

 独特の香りを放つキンモクセイ金木犀、巌桂)はモクセイ科モクセイ属の常緑樹で、花期は秋(9 - 10月)。先週は湾岸地域でもあちこちで強い香りの花が咲いていました。小さな花を沢山つけるキンモクセイですが、その実を見た人は多分誰もいない筈です。それもそのはず、江戸時代に中国から日本へ持ち込まれたのは雄の木だけで、そのため、その後は種子からではなく、取り木(幼枝の一部から、または根から発芽させたものを切り取って新たな株を得る方法)で株が増やされてきました。

 キンモクセイの香りは強い香水のようで、私などキンモクセイの木の下では弁当を食べる気にはなれません。香りの主成分の一つであるγ-デカラクトンはモンシロチョウが嫌いで、キンモクセイの花にやってくるモンシロチョウはいません。それにしてもキンモクセイの強い香りは私でも気になるほどですから、昆虫たちには大きな「雑音」に違いありません。花の香りは昆虫を呼び集めるためと考えられていますが、大半の虫はキンモクセイの香りが嫌いで、アブの仲間などが花を訪れるだけです。それなのに、キンモクセイは強い香りを出す花を大量につけ、花に相当なコストを払っていることになりますから、私には不自然に思えてなりません。日本での研究では、チョウの仲間は一種も訪れず、ハエやハチの仲間が訪れるだけだったと聞いています。

 キンモクセイの香りは何種類かの成分が混合したものですが、その一つがγ-デカラクトンだと述べました。この成分の匂いがモンシロチョウなどに嫌われるのです。花は、花粉を運んでもらうために、昆虫を呼びます。そのため、植物は自分の花粉を運ぶのに適した昆虫だけが自分の蜜を利用できるように、花に工夫を凝らします。例えば、ツツジは花蜜を細くなった花の奥の方に貯めています。ですから、長い口吻を持ったチョウは簡単にツツジの花蜜を得ることができますが、口吻が短い昆虫にはできません。一方、そのような構造をもたないキンモクセイの花は、様々な昆虫が簡単に蜜に到達できますが、揮発性の化学物質(=匂い)を出すことによって、昆虫の選別を行っていると考えることができます。でも、多くの昆虫に嫌われる匂いの効果は未だ謎のままです(もっとも、雄の木だけの日本のキンモクセイには昆虫など無意味な存在で、謎などない筈です)。