ヤマブドウとノブドウの実

 日本に野生するブドウの代表はヤマブドウヤマブドウは巻きひげを伸ばして、他の樹木に絡みつく。秋に熟す酸っぱい実は生食できるほか、ジャム、ワインの醸造にも使われる。ヤマブドウは雌雄異株で、雌株しか実をつけない。それが栽培ブドウとの違い。栽培ブドウは雌雄同株で、1株植えれば実がつくが、ヤマブドウからワインを造ろうと思うなら、雄株と雌株の両方が必要となる。

ヤマブドウの雄株は開花と同時に花弁が脱落し、雌しべが退化し、雄しべだけの雄花をつける。一方、雌株は両性花をつけるが、雄しべが雌しべよりも短く、雄機能が低下しているために自家受粉は困難。そのため、ヤマブドウが結実するには雌雄両株が必要ということになる。

 こんな能書きはさておき、子供の頃の私にはヤマブドウの記憶がほとんどない。栗や柿に比べると、心がときめくようなものではなかった。そのためか、今でもヤマブドウのワインを飲みたいとは思わない。飲めばうまいのかも知れないのだが…

**雄花には雄しべがあって、雌しべはない。一方の雌花では雌しべだけで、雄しべはない。雄しべと雌しべの両方を持つのが両性花。

 ノブドウ(野葡萄)はノブドウ属の蔓性落葉低木。イヌブドウ、カラスブドウとも呼ばれるが、それはヤマブドウに劣るため。その実は熟すと白色、あるいは光沢のある青色や紫色などに色づく。白い実が本来の実の色で、青色や紫色の実は虫が寄生している寄生果。ブドウタマバエやブドウトガリバチの幼虫が寄生して、虫えいを作ることが多く、紫色や碧色になり、むしろ正常な果実の方が少ない。ほとんどの実にタマバエの幼虫が寄生していて、食べられない。だが、この色の変化が実に見事で、私たちに「見る楽しみ」を与えてくれる。一方、ヤマブドウ(山葡萄)はたくさんの実をつけ、生で食べることができる。ヤマブドウは普通のブドウよりも栄養豊富で、アントシアニンポリフェノール、鉄分、ビタミンCを豊富に含んでいる。ノブドウとは違って、「食べる楽しみ」を与えてくれるのがヤマブドウ

 ブドウとなればワインだが、最近は野生種のヤマブドウとヨーロッパ系ブドウ品種などの交配で、優れたワイン用ブドウ品種が誕生している。例えば、ヤマブドウとフランス種の「カベルネ・ソーヴィニヨン」を交配させた「ヤマ・ソーヴィニヨン」。カベルネ・ソーヴィニヨンは日本の気候風土では栽培が難しい品種だが、ヤマブドウとの交配で日本での栽培が可能になり、「飲む楽しみ」が増えた。

*ヤマ・ソーヴィニヨンは山梨大学作出の赤ワイン用品種。耐病性が強く、栽培容易、豊産。温暖化の中でも着色がよく、北海道から西南暖地まで全国的に栽培できる。

ヤマブドウ

ヤマブドウ

ノブドウ